世田谷区はなぜこんなにも早く医療的ケア児支援センターを開設できたのか

2021年8月、医療的ケア相談支援センター(愛称:ひなた)が世田谷区にオープンしました。

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医療的ケア児支援法に明記されていることもあり、医療的ケア児の支援センターはこれからあちこちにできることが予想されます。ですが、これから計画し、予算を付け…となると、開設は数年先になるという自治体も多いはず。

しかし世田谷区は、全国的に見ても早いタイミングで、むしろ法律ができる前にこの支援センターをオープンしたのです!なぜこんなに早く作れたのでしょうか?しかも、誰がどうやって運営しているのでしょうか?

世田谷区の職員として30年以上障がい福祉に関わる、宮川善章さんにお話を聞いてきました。

なぜどこよりも早く作れたのか

構想は数年前から

宮川さん

こうした施設(医療的ケアの相談支援をワンストップで行う場所)の構想は何年か前からありました。

医療的ケアの必要なお子さんがいるお母さんたちから、特にお子さんが最初に退院して家に帰る時の情報収集がとても大変だと聞いていたのです。

今まで、障がいのある方や子どもの相談場所はあっても、「医療的ケア」を看板に掲げるわかりやすい相談窓口はありませんでした。

なのでこれはつくる必要があると考え、2020年の秋から開設に向けて動き出しました。

日本初の医療的ケア児支援センター

市民の声を元に以前から相談支援センター設置に向けて動き出していたという世田谷区。結果的に、法律が施行される前に開設することになった、と宮川さんは言います。

しかし医療的ケア児は障がい児の中でも数が少なく、さらに「医療」と「福祉」にまたがる新しい障がいカテゴリー。そのため、どうしても支援が進んでいない自治体が多いのが現状です。

そんな中、このタイミングで世田谷区が支援センターを設置できた理由は、区が数年前から行ってきた独自の取り組みにありました。

みなさんに「自分ごととして捉えてもらえた」クラウドファンディング

世田谷区は2019年に、「医療的ケア児ときょうだいにキャンプを贈ろう!」という、ふるさと納税を利用したクラウドファンディングを行いました。

民間の団体ではなく自治体としてこうした取り組みを行うのは珍しく、当時話題となりました。

宮川さん

クラウドファンディングは、いろんな議論があったんです。

医療的ケア児というだけでも数が少ないのに、さらにそのきょうだいですから。かなりピンポイントの支援ですよね。

でもそれが逆に、みなさんに身近な問題として捉えて頂くきっかけになりました。

この取り組みにはたくさんの問い合わせがあり、直接寄付をした方も多かったそうです。

それらを元に区では「世田谷区医療的ケア児の笑顔を支える基金」を設立。これを財源として医療的ケア児家族にキャンプを贈ったり、医療的ケア児を受け入れる施設に補助を出したりしています。

また、数年前から「世田谷区医療的ケア連絡協議会」という、関係機関や当事者家族などから話を聞く場も設け、定期的に意見交換。

こうして積み重ねてきた支援策があり、この時期に医療的ケア相談支援センターをつくることができたのです。

どこが担い、どうやって運営するのか

医療的ケア児の支援は、福祉と医療という2つのジャンルにまたがる難しさがあるというのは先述の通りです。

それだけに、どこの課が医療的ケア児支援を担当するのかすら決まっていない自治体もあるといいます。世田谷区はこの辺りはどうなっているのでしょうか。

3年前(令和元年度)に担当の課ができた

宮川さん

私が今いるのが、「障害福祉部 障害保健福祉課」です。

この部署は、最初から「医療的ケア」「精神障害者福祉」「発達障害」などの、障害者福祉の中で課題となっているジャンルに取り組むためにできました。教育や保育などそれぞれの専門部署があった上で、この課が協議の場、取りまとめ役として区役所の中で位置付けられたのです。それが令和元年度です。

平成30年度から検討され、令和元年度に設置が決まったという今の課。ちょうど医療的ケア児が全国で推定2万人になり、対応が叫ばれていた頃です。

世田谷区では「取りまとめ役の課」を新しく設置することで、支援を進めてきたのですね。

障害福祉保健課ができた時から医療的ケア児支援に関わってこられたそう

ひなたの運営は相談支援事業所に委託

ひなたの運営は、世田谷区内で相談支援事業を行う、「全国重症心身障害児(者)を守る会」に委託されています。この委託先はどうやって決まったのでしょうか。

宮川さん

世田谷区には40数カ所の相談支援事業所があります。全国重症心身障害児(者)を守る会は、その中でも重症心身障害児、医療的ケア児の相談支援を行ってきたのを存じ上げていました。

なので、今お願いするならここかなと思いました。

170人の医療的ケア児とこれから退院する子どもたちのために

ひなたを利用するのは、区内に170人いる医療的ケア児たちです。

世田谷区は92万人(2021年現在)と23区内でも人口が多く、さらに国立成育医療研究センターという大きな子ども病院がある関係で医療的ケア児の数も多くなっています。

この170人の医療的ケア児たちと、さらにこれから退院してくるであろう子どもたちのために、ひなたはつくられました。

退院直前・直後の一番厳しい時期にひなたに繋がってほしい

宮川さん

医療的ケアがあり、今まさにこれから退院してくる子どもたちが、ひとり、ふたりと一番厳しい時期にひなたに繋がってほしい。

だからこそこの場所(成育医療センターと同じ敷地内)に開設し、都内の主な子ども病院にも、ひなたのチラシを送っています。

何人いて、どれぐらいお手伝いできるかは具体的には分かりませんが、そことしっかり繋がっていきたいと思っています。

子どもが退院しておうちに帰ってくるのは本当に嬉しいことです。ですが、病院でやっていた医療的ケアを家族で担うのは想像以上に大変です。

最初から訪問看護や訪問診療、ヘルパーなどの支援に繋がることができ、在宅で医療的ケアを行う仕組みが整うかどうかは、その後の家族の在り方に果てしない影響を及ぼします。

【初めてのお家!準備は?手続きは?】医療的ケア児の退院と在宅移行の体験談

今後の課題と新たな取り組み

「ちょっと寄っていってよ」と僕たちも言いたい

ひなたは、まずは火・木の週2日オープンします。(予約推奨)

相談支援業務は、病院や学校・利用者の自宅などいろいろな場所に行って話を聞いたり調整したりが主な業務。なので、支援員が常に事務所にいる状態はなかなか難しいそうです。

宮川さん

ひなたは床にカーペットが敷いてあり、お子さんが自由に遊べるようにしてあります。今後は、どうオープン日数を増やしていき、居場所的にしていくかがおそらく次のステップです。

成育医療センターやもみじの家からも近く、「ちょっと寄っていってよ」と僕たちも言いたいので。

今年品川区にオープンした「インクルーシブひろば ベル」のように、医療的ケア児と家族が安心して利用できる居場所づくりにも注目が集まっています。今後多くの自治体が取り組んでいく課題となるでしょう。

世田谷区独自の取り組みが受け入れられてきた

宮川さん

世田谷区は、障害児施設の医療的ケア児の受け入れを進めて下さいとか、ふるさと納税でお金を集めてきょうだい児支援しましょうとか、災害時の仕組みづくりを考えましょうとか、医療的ケア児の支援を1つ1つやってきました。

色々施策があって、それを積み重ねて今があると感じています。

世田谷区には170人というある程度まとまった数の医療的ケア児がいて、何年も前から少しずつ支援を行ってきた結果、この時期のセンター開設につながったことがわかりました。

もちろん、全国にはもっと医療的ケア児の数が少ない自治体もあります。これから、それぞれの自治体が、それぞれのやり方で医療的ケア児支援を進めて行くでしょう。

アンリーシュでは、今後も様々な取り組みを取材していきたいと思っています。

【医療的ケア児支援法を解説!】法案内容や今後の課題について、署名活動への想い

世田谷区医療的ケア相談支援センター
【施設名】
世田谷区医療的ケア相談支援センター  <愛称 Hi・na・ta(ひなた)>【住所】
〒157-0074
世田谷区大蔵 2-10-18 大蔵二丁目複合型子ども支援センター3階【電話相談】
03-5432-2247 (平日8:30〜17:00)【来所相談】
火・木曜日 10:00〜16:00【ホームページ】
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/fukushi/002/007/d00191191.html【世田谷区 問い合わせ先】
世田谷区障害福祉部 障害保健福祉課
TEL:03-5432-2247
FAX:03‐5432-3021