【ライター紹介】
こんにちは!うーちゃんのママです。現在、二人の兄妹を育児しています。
娘には口蓋裂をはじめいくつか疾患があり、現在行っている医療的ケアは経管栄養です。
目次
難病と共に産まれた娘「うーちゃん」
娘(うーちゃん)には生まれつきの疾患がある。
口蓋裂、舌根沈下による呼吸障害、小下顎症…
1/30000の確率で発生すると言われる、難病だそうだ。
うーちゃんは「低体重出生児」で産まれ、即NICU行き…
その翌日には医師から「難病」の宣告を受けることになった。
「あの…うーちゃんの事なんですけどね、 実は 口蓋裂があるんですよ。」
正直、この時の私は相手が何を言っているのか、全く理解できなかった。
そもそも、「口蓋裂」という言葉自体はじめて聞くものだった。
すると、医師が丁寧に、図を書いて説明してくれた。
その図を見て、説明を聞いて…
うーちゃんの口の中には、ぽっかりと穴が開いていて、普通とは違うんだということだけは解った。
…沈黙が流れた。
すると、医師がさらに話を続けた。
「うーちゃんの口蓋裂は重度です。おそらく直接の授乳は厳しいでしょう。
しばらくは、鼻から胃までチューブを入れ、ミルクを注入することになると思います。
下顎も小さく、小下顎症が見られます。
舌根沈下もあり、呼吸障害を起こしています。
度々チアノーゼ (血液の中の酸素が欠乏して、皮膚や粘膜が青黒くなること )も見られるので、非常に危険な状態です。
この病気は3万人に1人の確率で発生するといわれている難病です 。今後は、長期的な治療が必要になるでしょう。」
何も言えず、はじめて聞く言葉ばかりで、頭の中はグチャグチャになった。
理解しないといけないのに、しっかりしないといけないのに、頭がついていかない。
ショック…戸惑い…不安…
その感情だけはハッキリと覚えている。
そんな中、声を振り絞り、たった一つだけ質問した。
「先生…これって…治る病気でしょうか。」
・
・
・
答えはNOだった。
難病なので、今の医療技術を以てしても、これといった治療法はないそうだ。
ただ、この病気は個人差が大きく、合併症が成長途中で発見されることが多いため、今の段階では何とも言えないと言われた。
その夜、私は布団の中で声を押し殺して泣いた。
なんで…なんで…なんで私なの?
なんでうーちゃんがこんな目に合わないといけないの?
これから先の不安…
長男の事が頭をよぎった。
あんなに妹ができるって喜んでくれたのに…
何て言ったら、何て伝えたらいいんだろう。
長男「お兄ちゃん」の存在
うーちゃんにはお兄ちゃんがいる。
お兄ちゃんは優しくて、面白くて、私にとっては「相棒」のような存在だ。
お兄ちゃんが産まれたとき私は仕事が忙しく、すぐに職場復帰をしないといけない状況だったため、生後間もない頃から保育園に通っていた。
朝起きて、一緒にごはんを食べて、一緒に保育園へ行って、仕事が終わればダッシュで迎えに行って、帰りには子どもの様に一緒に寄り道してはしゃいだり…。
夫は仕事が忙しいので、完全に「ワンオペ育児」だった。
夕飯も二人、お風呂も二人、寝る時も一緒。
二人で外食に行くことも多く、いつでもどこでも一緒だった。
辛い時も、嬉しい時も、全部二人一緒に乗り越えてきた。
そんなお兄ちゃんを私は溺愛していて、私も夫も、子どもは息子一人でいいとずっと思っていた。
そんな中、突然お兄ちゃんが…
「ママ…俺も、兄妹がほしい。妹が欲しい。」
なぜ今更?しかもなぜ妹限定?(←なんとなく、可愛いイメージがあるらしい)
詳しく理由を聞いてみると、お兄ちゃんの通う保育園には、兄妹(兄弟)がいる子が多く、いつも一緒にいる様子を見ていると、徐々に羨ましいと思うようになったそうだ。
「何で俺には兄妹がいないの?」
そう言われ、夫婦で相談した。
仕事の事、これからの事、私達が老いてこの世からいなくなった後の事・・・。
考えれば考えるほど、息子には兄妹がいた方がいいという結論に導かれた。
そうして、二人目の出産を決意し、うーちゃんが誕生した。
母、どん底から立ち上がる
医師にうーちゃんの疾患を告げられた夜、泣いて、泣いて…ひとしきり泣いたら、
「泣いている場合ではない、泣いても何も変わらない。
今はうーちゃんの為に、出来ることをやるしかない。」
そう思った。
それから私は、手探りの中、インタ―ネットでうーちゃんの病気に関する情報を集めた。
ノートに要点を書きだしながら、検索ページはあっという間に、閲覧済みの紫色のリンクに染まっていった。
1ページ目、2ページ目、3ページ目・・・
ほぼ、徹夜状態で調べまくった。
それからも私は、時間があれば毎日インターネットで関連情報を探し続けた。
うーちゃんが自宅に帰ってから少しでも快適に暮らせるように…。
専門知識はないが、少しでもヒントがあればと論文などのPDF資料まで読み漁った。
退院まで、病院では様々な指導を受け、たくさんの知識を学ばせていただいた。
舌根沈下による呼吸障害を防ぐための経鼻エアウェイ挿管と吸引器による吸引、気道確保のための体位指導(ポジショニング)、固定テープのテーピング方法、酸素モニターの使い方、経管栄養(鼻チューブ)挿管・ミルクの注入、口蓋裂用哺乳瓶での授乳など、在宅看護(医療的ケア)で必要なものは全て。
それから約5カ月が経ち、うーちゃんは鼻チューブと経鼻エアウェイは卒業できないまま、退院となった。
3人で行く、「はじめての保育園」は不安だらけ
うーちゃんは退院して間がなく、外出中も経鼻エアウェイの吸引が必要な事もあり、普段は出来るだけうーちゃんを連れての外出は控えていた。
そんなある日、お兄ちゃんの通う保育園へ用事で行かなければならなくなった。
その日は夫も不在で、うーちゃんを見てくれる人がおらず、一緒に連れて行かなければならない状況だった。
うーちゃんが退院してからはじめて、保育園へ連れて行くことになる。
※この日はお兄ちゃんは保育園を休んでおり、結局兄妹二人を連れて行くことに…。
「お兄ちゃん…大丈夫かな…。」
そんな想いが、頭をよぎった。
うーちゃんには経鼻エアウェイと鼻チューブがそれぞれの鼻の穴についている。
誰が見たって「普通じゃない」と思うだろう。
しかも、これから行く場所は…保育園。
そう、無邪気に思ったことを口にする、子どもがたくさん集まる場所だ。
何を言われるかわからない…
お兄ちゃんは・・・どう思うだろうか。
「恥ずかしい」とか、「連れて来るんじゃなかった」とか、思わないだろうか。
そんなことを考えているうちに保育園に着いてしまった。
重い足取りで、2人を連れて入口へ向かう…。
開け慣れたドアのはずなのに、今までに感じた事のない緊張感に襲われた。
何て言われるだろう…。
子どもたちが集まってこないといいけど…
うーちゃんの姿を見たら…先生にも気を使わせてしまうかな…
モヤモヤと考えながら…うーちゃんをギュッと抱きしめた。
園児たちからの『残酷な言葉』
ドアを開ける手が震える。
カチャ…
私「こんにちは…」
すると、奥から先生が駆け寄ってきた。
先生「お母さん!ごめんね、呼び出しちゃって!」
いつも通りの先生の元気な声に、安堵し、少しだけ緊張が和らいだ。
先生「わぁ!かわいい!!ちっちゃいね~!」
初めてうーちゃんを見た先生がそう声を上げると…
園児「妹ーーー!?見せて見せて見せてーーー!」
予想通り、張り切った大きな声で、園児たちが次々に、ワラワラ集まってきた。
ヤバい…ヤバい…どうしよう…来た…
ドッドッドッドッ…(鼓動が早くなる…)
・・・・・・・・・
園児「あれ?なんでこの赤ちゃん鼻からなんか出てるん?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ハイ!来た。
来ましたよー、見事、予想的中…。
そこ、気が付かなくていいところだけど、気になっちゃうよね。
うん、わかるわかる。
でも、大丈夫。
絶対聞かれるだろうと、子どもたちに解るように説明を用意してきたからね。
そう、明るい感じで答えるんだ。
私「はじめましてー!
うーちゃんはね、まだ上手にミルクが飲めないから、ここからミルクを入れるんだよ~。」
園児「ふ~ん…?うちの妹はこんなの付いてなくっても飲めるけど。」
私「・・・・。そ…そうなんだ!すごいね!上手に飲めるんだね!」
なんとかここはクリア。
若干、トゲのある園児の言葉に動揺しながらも、冷静さを装った。
ふぅ…
このままいけば、質問がどんどんエスカレートしそうだ…
長居は無用。
ヘタな質問されて、お兄ちゃんにまで被害が及ぶのはどうしても避けたい…。
あまりこういう話は聞かせたくないし、こういう状況の中に居させたくない…
お兄ちゃんが傷つけられる前に…早く帰ろう…
早く…一刻も早く…
園児「じゃあ、コレ(エアウェイ)は何?」
・・・ギクッ!!もう次の質問が来たか!
私「…こ…これはね、うーちゃんは息をするのが上手じゃないからね、これを使って息してるんだよ。」
園児「・・・・。変な赤ちゃん。」
私「・・・・・(絶句)」
・・・。
えーーーーと…今、何と?
「変」だと??
・・・。
(相手は子供、相手は子供、相手は子供、相手は子供、相手は子供、相手は子供…)
呪文のように頭の中で繰り返し唱える。
そうでもしなければ、普通に説教してしまいそうな勢いだった。
園児から見たら、他人から見たら、うーちゃんは「普通」の赤ちゃんではないかもしれない。
でも…私にとっては、大切な可愛い我が子。
それを…「変」だと?
いくら相手が子供であったとしても…怒りがこみ上げてくる。
しかし、子供にとっては「変」と表現するより他なかったのかもしれない。
怒りと共に、悲しさが襲ってきた。
改めて、うーちゃんは「普通」ではないと、ストレートに言われた気がした。
正直、へこんだ。
園児に、へこまされた。
まさかの救世主降臨!?
私「へっ…変かな~?
普通だよ~…そういう赤ちゃんもいるんだよ~…(汗)」
荒ぶる心の波を、なんとか沈めながら、引きつった顔で対応していると、先生の表情もあきらかに慌てた様子…
すると・・・
お兄ちゃん「は?お前も鼻にハナクソ付いてんで。」
一同「!?」
え!?嘘でしょ!?
今まで黙っていた、お兄ちゃんが、まさかの参戦!!!!
園児「えーーーっ!ハナクソー!?ついてないわー!!」
お兄ちゃん「鏡見てこいや。ついてんで。」
園児一同「ぎゃははははー!!!!!!(大爆笑)」
・
・
・
あれ?君は…この子は…神様ですか?
惚れてまうやろ…お兄ちゃんよぉぉぉぉ…(涙)
怒りも、悲しみも、この一言で一気に吹き飛んだ。
園児とのやり取りの中で、お兄ちゃんが傷ついていないかハラハラ心配していたが、まさかそんな助け船を出してくれるとは、夢にも思わなかった。
「私が守らなきゃ!」
ずっと、そんな風に思っていた私は、お兄ちゃんがこんなに頼りになる存在に成長していた事を、この時初めて知った。
いつまでも、守られるだけの存在じゃないんだね。
こうしてこの一件は、まさかのお兄ちゃんの一言に、一同大爆笑となり、私の心はスカッと救われました。
ありがとう、お兄ちゃん…。
救世主お兄ちゃん、再び。
そんなこんなで、用事も済み、さっさと帰ろうとしたその時、第二の試練が!!
「あれ?!赤ちゃんだ~!」
ちょうどお迎えラッシュに差し掛かる時間帯だったこともあり、外でばったりママ友達に会ってしまった…
ママ友「妹ちゃん!?ちいさ~いっ!はじめま・・・・」
うーちゃんを見た瞬間に言葉を失うママ友たち。
そりゃそうだよね…。そうなるよね…。ママ友たちの反応は、想定範囲内だった。
あぁ…一刻も早く、この場から去りたい…。
遠回しにうーちゃんの事を根掘り葉掘り探ってくるママ友たちの言葉に、ゲッソリしながらも愛想笑いを浮かべ対応していると…
隣でつまらなそうに、話を聞いていたお兄ちゃんが…
「ママー!早く帰ろー!」
急に私の服の裾を引っ張り、話に割って入ってきた。
ナイスーーー!ナイッスー!!!
…救世主、再び降臨。
またしても、お兄ちゃんに助けられてしまった。
心の中でガッツポーズしながらも、表向きでは申し訳なさそうな表情を浮かべ、
私「そっ!そうだね、帰ろっか!!お腹すいたよね!
すみません~、じゃあお先に失礼しますね~。また今度。(ホッ)」
そう言って、いそいそと急いでいるふりをしながら車に乗り込んだ。
あぁ、助かった…「安堵」以外の何者でもない、この気持ち。
まさか二度もお兄ちゃんに助けられるとは…。
家路に向かう車内にて
あー…終わった。
ようやく、帰れる…。
助手席に座るお兄ちゃんは、まっすぐ前を見ていて、なんだか一回り大きくなってしまった、ちょっと遠くに行ってしまった気がした。
大きくなったなぁ…相棒。
私「お兄ちゃん、さっきはありがとね…。」
お兄ちゃん「なにが?」
私「いや…いろいろ。助けてくれて。」
お兄ちゃん「別に…。ママ、早く帰りたいって顔してたから。」
私「・・・・。」
なんと!母想いの、できた息子!!(親バカ)
本気でこの時ばかりは、息子が超かっこよく見えた瞬間だった…(涙)
私「…ありがと。お兄ちゃん、嫌な思いとかしなかった?大丈夫?」
お兄ちゃん「ううん、全然。なんで?」
私「いや…その…お友達が…うーちゃんの事、変だって…」
お兄ちゃん「は?ってゆうか、あいつの方が変やし。うーちゃんの方が1億万倍かわいいし。」
私「・・・・・あ・・・・・ありがとう。」
涙が溢れそうになった。
私は、お兄ちゃんが難病の妹うーちゃんを受け入れてくれるかずっと心配だった。
お兄ちゃんが欲しかった念願の妹。
きっと、うーちゃんが産まれるまでは、保育園のお友達の妹みたいな、元気な妹を想像していたことだろう。
うーちゃんを妊娠中、お兄ちゃんがこんなことを言っていた。
「ママ、俺な、妹が産まれたら一緒に保育園に通うのが夢やねん!
俺も皆みたいに、妹と一緒に保育園で遊びたいねん。そんで、一緒に帰る!」
無邪気にそう私に話してくれたお兄ちゃん。
その願いは叶えてあげることはできず、現実には、鼻にチューブが入っていて、一緒に保育園に通う事も出来ない妹。
心のどこかで、その願いを叶えてあげられない事を責めていた。
うーちゃんは、お兄ちゃんにとって理想の妹ではなかったかもしれない。
うーちゃんを、恥ずかしく思う事もあるかもしれない。
うーちゃんを、本当に心から胸を張って「俺の妹だ!」って言えないかもしれない。
本人に直接聞く勇気はなく、勝手にそう思っていただけに、今回のお兄ちゃんの優しさ、うーちゃんに対するあったかい気持ちを知ることができた気がして、心から嬉しかった。
うーちゃんのお兄ちゃんが、君でよかった。
下を向かない、諦めない「医ケア児ママ」を目指して
私は、うーちゃんが産まれるまで、「医療的ケア児」という言葉を知りませんでした。
「医療的ケア児」については、まず受け入れてくれる施設が少ない事、それにより母が仕事を辞め、在宅で看護せざるを得ない状況になること、看護疲れが大きな問題だと思っています。
仕事を失い、経済的負担は大きくなり、肉体的にも精神的にも追い詰められてしまうお母さんも少なくないそうです。
私は、うーちゃんを産む前から在宅で働いていました。
うーちゃんが産まれ、難病がわかった時、私は仕事もあきらめ、全てを看護に捧げるべきなのか、自問自答を繰り返しました。
でも「絶対に諦めない」と心に誓いました。
ここで、うーちゃんを理由にやめるのは、なんか違う…
将来、「うーちゃんの為に辞めた」「自分を犠牲にした」と思いたくはない…
だから今も辞めずに、セーブしながらですが続けています。
インターネットが普及し、何でも検索すれば欲しい情報が手に入る時代にもかかわらず「医療的ケア児」についての情報はまだまだです。
私自身、医療的ケアを行っていくうえで、日々壁にぶつかっては、検索するも根本的な解決には至らず、訪問看護や病院の先生などに相談し、教えてもらった情報を元に試したり、工夫したりの連続でした。
そういった経験を元に、これから先の世代の「医ケア児ママ」のためにも、自分の経験を発信していきたいと思い、微力ながら情報を発信しています。
以前の私は、障害がある子供について、どこか他人事の様に考えていました。
自分には関係のない話だと。
今までの「あたりまえ」だった世界が、一転しました。
しかし、娘が産まれてこなければ、見えなかった世界が見えるようになりました。
今では、娘を産んでよかったと、心から思っています。
そして、妹想いの優しくて頼もしいお兄ちゃんが居てくれて、本当によかったと。
最高の兄妹で、自慢の子ども達です!
二人とも、産まれてきてくれて、ありがとう。
アンリーシュでは、一緒に医療的ケア児とその家族が暮らしやすい未来を作る、アンリーシュサポーターを募集しています!
どんな子どもも「当たり前の様に一緒に暮らす」未来を作りませんか。