【後編】小児プライマリケア認定看護師インタビュー|子どもたちを守る強い味方となるために

2020年度から教育課程がスタートした新たな認定看護師資格、「小児プライマリケア認定看護師」。

2021年度が第1期で、済生会横浜市東部病院で教育課程が開催されました。日本全国から応募した9名の看護師が受講され、本インタビューではそのうち6名の方々にお話を伺っています。

受講された皆さんの熱い思いを、前後編に渡ってお届けします!

後編の今回は、「小児プライマリケア認定看護師の教育過程」「小児医療の問題点」そして、「認定看護師としてできること」についてお聞きしました。

 

 

お話してくださった受講生の看護師の皆様

五十嵐 隼人(いがらし はやと)様  昭和大学江東豊洲病院
宇都山 奈保(うつやま なほ)様  恩賜財団 済生会横浜市東部病院
酒井 美緒(さかい みお)様  独立行政法人地域医療機能推進機構 中京病院
望月 健之(もちづき たけゆき)様  平塚市民病院
二階堂 伸也(にかいどう しんや)様  藤沢市民病院
森谷 幸絵(もりや ゆきえ)様

 

小児プライマリケア認定看護師の教育課程とは?

ーーー受講されてみて、教育課程ではどんなことに力が入っていたと感じましたか?

森谷さん

「小児救急認定看護師」が「小児プライマリケア認定看護師」に変わり、教育課程に医療的ケア児に関するカリキュラムも加わりました。やはりその背景には、医療的ケア児が増えたことによる社会的ニーズの増加があります。

講義では、実際に訪問看護で働いている看護師さんや地域で活動されている方、さらに虐待の専門分野の方など、いろんな職種の方が講師として来て下さいました。

今まで関わったことがない人たちの生の声が聞けたということは、すごく良かったと思っています。

この資格は、医療的ケア児だけではなく、医療的ケア児を含めたすべての子どもたちとご家族などを対象にする資格になっています。

家や病院などどこで生活をしていても、そこにいる子どもが私たちの資格の対象だと思っています。

望月さん

やはり僕自身一番刺激を受けたのは、医療的ケア児に関するカリキュラムの部分です。

胃ろうや呼吸障害の子どもたちのケアや看護、また法律のことまで、時代背景としてやはり医療的ケア児を支援する方向に変わってきているので、そこに力が入っているのかなと感じました。

酒井さん

トリアージと言って、子どもたちの急変予測だったり、状態をきちんと系統的にアセスメントすることを学べたのは、小児のどの分野においても必要だと感じましたしすごく勉強になりました。

二階堂さん

授業では医療的ケアも多かったですが、「子どもから見たらどうなのか」という視点にも時間が割かれていたと思います。

医療者はどうしても医療者の目線で子どもを見てしまいやすいですが、実際は「子どもからどう周りが見えているか」など子ども中心に考えることが大事だよという、基本的なことを何度も体験授業や講義を受け発表する部分がありました。

子どもたちを守らなければいけないという視点だけではなく、子どもたちがもっと自分たちで出来ることや、それをするのに僕たちが手助けできるのはこういうことだよというのを、周りのスタッフや世の中に伝えることができる、そのための知識と技術を持った看護師が小児プライマリケア認定看護師なのかなと思っています。

小児医療の問題点…「担い手を増やすために」

ーーー受講してみて印象に残ったのはどんなことでしょうか?

二階堂さん

実際に感じたのは、お母さんたちがすごく頑張っているなということです。

バイタリティがあるお母さんが多いなという印象があるんですけれども、でも、みんなが最初からそうだった訳じゃないのではと思っていて。

お母さんたちが頑張りすぎなくても、健常の子のお母さんと同じような生活ができて、子どもたちも同じような事を望める、それが当たり前だと、そういう意識になれればいいかなと思うんです。

やっぱり、本人とご家族、それを支援する訪問看護師など以外はあまり知らなくて、当事者の輪が小さくそれが広がっていかないのが原因の一つかなと。

だからその中で頑張る人が限られちゃってて、そこをいかに支援するのかも大事だけれども、その輪を広げることによって頑張る力を減らせるのではと思います。

輪を広げ関わる人を増やすような、そんな役割ができればいいなと思っています。

 

ーーー主に母親に負担がかかりすぎているというのは支援者の皆様も思っていらっしゃることだと思います。なかなか改善していかないですが、医療者の立場から見てどうしたらいいと思いますか?

二階堂さん

一つには、まずは加算がついていないのがあります。

参入する人たちにとってあまりにもメリットが少なければ、善意と言うか、志がある人しか参入できなくなってしまいます。

もちろんそれをビジネスとして、生業として暮らしている人もいる訳で、そんな暮らせない仕事を誰が積極的にやるんだとなってしまいますよね。

それで担い手が少ないままでは、支援も少ないままなのかなと思います。

ただ、問題として、医療的ケア児は絶対数が少ないというのがある。

少ない医療的ケア児のためだけに行政が何かをするというのも、どうしても他の部分に比べると現実味が薄いのではないかという意見が多くなると思います。

今は支援拡大の必要性を知っている人が、どうしても内向きの小さい輪の中に収まってしまっているのかなと思っていて、それを外に広げるためにアンリーシュのようなメディアや、支援者どうしを繋ぐ活動を続けていくことが必要なのかなと思っています。

ーーー確かに、小児医療は利益を出しづらいとずっと言われ続けています。

宇都山さん

看護の話で言うと、子どもの看護ってすごく人数が必要なんです。

例えば1人の子どもの採血をする際も、相手が大人なら1対1でできても、子ども相手に1対1では難しい。そういうのがなかなか理解されないというのがあります。

五十嵐さん

私が新人で入った頃よりも、今の方が医療的ケア児の子の重症度とケア度が上がっていると感じます。

例えば、カフアシストなど排痰ケアの機械をレスパイトの時に持ってこられるご家庭も多いんですが、私が新人の頃は、それが必要な子たちというのは、かなり重症度が高い子たちだったんですよ。

それがもう最近は各家庭に一台あってお母さまたちがケアしていたり、レスパイトの時に1日2回これをお願いしますみたいに普通に持ってきているのを見ると、医療的ケア児の子たちのケア度というのは格段に上がってきていると感じます。

ですが、そこに加算が付いているかと言われるとそうではないんですよ。

正直お金の話になってしまうと、給料は同じだけれども、やることの複雑さや、それに伴うメンタル的な部分に対する保証は、なかなか結びついてないというのが現状かなと思います。

ーーー現場の課題を知ってもらい、制度や仕組みを変えていく…そんな必要がありそうですね。今回の資格は、何かこの状況を変えるきっかけになりそうでしょうか。

五十嵐さん

医療的ケア児の増加に伴って、地域で活躍できる看護師を増やしていこうというのが背景にはあるんですけれども、プライマリケア認定看護師を配備した病院への加算などはまだありません。

それは、これからの私たちの活動や発信の仕方によるのかなと思っています。こういった部分も、国や周りに伝えていきたいなと思っています。

小児プライマリケア認定看護師としてできることは

ーーー今後、資格を取られた後に、小児プライマリケア認定看護師としてどのように活動していきたいと思っていらっしゃいますか?

森谷さん

この資格は、病院で働いている看護師だけではなく訪問看護ステーションや保育園で働いている看護師も受けられる資格になっています。

1期生はたまたま病院で働いている看護師しかいませんでしたが、今後は地域で働く看護師も認定を取る人が増えるでしょう。病院と地域でもっと連携が取れるようにしていくことで、支援の強化をしたいと思っています。

宇都山さん

1年この過程で学び、私は医療的ケア児や入院しているすべての子について、病気になったから病院に来て、治ったから退院する…そういう一点、断面でしか見ていなかったと感じました。

入院は、子どもや家族にとっては点ではなく、続いている生活の延長なんです。

また、医療的ケアについてなかなか相談先がないと言われています。私も全てを知っているわけではないですが、あの病院だったら看護師さんに相談したらいいよねと言われるような存在になれたらいいなと思っています。

酒井さん

お母さんたちの生活の質をなるべく維持できたらいいなと思っています。どうしても生活が変わってしまうと思いますが、その中でも子どもと家族がその人たちらしく生活できるように援助していきたいです。

今後は私がお母さんたちに情報提供をできたり、病院でやっている就園・就学のカンファレンスに入って、病院からできる支援が行えたらいいなと思っています。

望月さん

私は現在DMAT(災害派遣医療チーム)として活動しています。

医療的ケア児者は災害時の要配慮者に該当する方が多いと思いますが、そういう子たちが被災地でも安全に生活できるように活動していきたいなと思います。

まずは自分の地域で、災害時の個別避難計画について市の災害対策課と話し合い、何か検討できたらいいなと思っています。

今はまだ、医療的ケア児の医療や看護についての相談窓口が不足しています。特に今回、教育委員会や児童発達支援の人たちから、どこに相談していいかわからなかったという声を聞きました。

小児プライマリケアの認定看護師がいてそこが窓口になれれば、病院、地域、学校、福祉の連携が取れ、その自治体はもっと良くなるでしょう。そういったニーズに応えられるよう活動していきたいなと思っています。

五十嵐さん

この過程を受講したきっかけは、自分が病院の中で、医療的ケア児支援のロールモデルになれたらいいなと思ったことでした。

ですが、実習などを通して様々な人の話を聞いて、訪問看護師さんは訪問看護師さんの信念があってご家族と関わり、学校の先生は子どもたちを教育するために関わっているんだと感じました。

つまりみんな信念があって支援したり活動していますが、そこでどうしてもお互いの信念と信念がぶつかり合ってしまい、ずれや乖離が生まれてしまうことがあるんです。

今後はそういった人を支援する、支援者支援も目指していきたいなと思いました。病院だけでなく地域全体に関わっていきたいなと思っています。

二階堂さん

今まで、病院に来る医療的ケア児は、具合が悪くなっているかレスパイトで来るかのどちらかでした。

なので、悪くなった状態を良くするとか、期日が決まっているレスパイトの中で、お家でやっているケアをいかに継続して状況が変わらないままお家に帰すかなどにしか思いがいかず、家での生活についてまではなかなか想像できていませんでした。

ですが講義を受けたり様々な人の話を聞いて、入院しているのはただの治療の一過程ではなく、お家から繋がっている生活の中で場所や目的が多少違っているだけであり、一つの流れの中で接しないと、子どもたちやお母さんたちがどんなことに困っているかを引き出せないなと感じました。

今後はそういう部分を意識して関わって行こうと思いました。

インタビューを終えて

今回話を聞かせて下さったみなさんには、「こうした資格があることを知ってほしい」「子どもたちやご家族、そこに関わる人々の力になりたい」という強い思いがありました。

このインタビューを通じて、少しでも多くの方に新しい資格について知って頂き、また小児看護や医療を実践する方の思いを感じてほしいと思っています。

プライマリ・ケアとは、「身近にいて相談に乗ってくれる医療者による、総合的な医療」とされています。

小児プライマリケア認定看護師は、きっと子どもたちを守る力強い存在になってくれるのではないでしょうか。

こちらの記事は、クラウドファンディング「医療的ケア児の就学事例集をつくりたい!」を、教育課程を受講された看護師有志の方々にご支援頂き作成が実現しました。

ご支援本当にありがとうございました。

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