【インタビュー】子育てをしながら在宅で医療的ケア児グッズを販売!奥井さんの両立の秘訣と商品への想い

 

SNSの流行で、育児をしながら在宅で働くご家族とその活動を目にする機会が増えてきています 。育児と仕事の両立は想像しただけで大変そうですよね。
なぜ仕事をはじめようと思ったのか、どうやって仕事の時間を作っているのか、気になる方も多いのでしょうか。

今回は、そんな育児と仕事を両立している医ケア児のママ「palette ibu.(パレットイブ)」代表の奥井のぞみさんにお話をうかがいました。

アンリーシュでは以前もpalette ibu.の紹介記事を掲載しているので、こちらもぜひご覧ください。

【医療的ケア児のための病児服や医療生活雑貨を販売】palette ibu.

palette ibu.をはじめたきっかけ

―――なぜ医療生活雑貨を作ろうと思ったのですか?

病院から支給される医療ケア物品は数に限りがあって、使いたいと思った時に手元にないことがありました。はじめはインターネットで購入していたのですが「繰り返し使えるものはないか?」と考え、いろいろ検索したところアメリカのサイトでペグカバー(胃ろうカバー)の存在を知りました。
いろいろな形や刺繍のペグカバーをみて、すごい!と思いました。今まで医療ケアの物品=白と思い込んでいたので衝撃を受けました。
これがうまく作れればな、と思ったのがpalette ibu.をはじめたきっかけです。

 

―――確かに、医療物品=白のイメージは強いですね。

もちろん、衛生的なイメージや出血しているかの確認のために「白」である必要性もあると思いますが、胃ろうの穴が完成していてジュクジュクしていなければ、自分で使うならいいかなと考えていました。

ショートケーキ赤

palette ibu.のペグカバー「ショートケーキ赤」

 

―――裁縫は元々得意だったのですか?

そこまで得意ではなかったです。
でも、小物はちょくちょく作っていました。結婚式のウェディングベールを作ったり、妊娠中に肌着やスタイを作ったりしていました。ペグカバー作りのハードルは低かったと思います。

コンビ肌着ローズ

palette ibu.「コンビ肌着ローズ」
(撮影 三島史子)

コンビ肌着 展開写真

着脱しやすいように工夫がされています
(撮影 三島史子)

育児と仕事、両立の秘訣

―――制作の時間はどうやって管理しているのですか?

週3回、子どもが寝た後の夜10時~1時ぐらいにやっています。あとは土日、家族が子どもをみているときに2~3時間ほど時間をもらって作っています。

 

―――すべておひとりで作っているのですか?

ペグカバーはわたしひとりで、それ以外は協力してくださる方と一緒に作っています。

注入ボトルカバー

palette ibu.注入ボトルカバー「ベッツィ(リバティ)」

―――2人のお子さんを育てながらのお仕事は大変ですよね。自分の時間を作るのも難しそうです。

(下の子が)やっと保育園に入ったんですが、今風邪をひいて休んでいて…バランスをとるのが難しいですね。
制作は家族の協力がないとできないです。夫が
palette ibu.の活動を理解してくれるのが1番ありがたいです。夫はいぶき(お子さんの名前)が大好きで、ケアもしてくれるので。
palette ibu.を始める前は、自分の時間を作るために夫と話し合い、1ヶ月に1回おひとり様の時間を作って夜3時間ぐらい外にでて過ごすようにしていました。

 

―――palette ibu.以外の仕事をしようと考えたことはありますか?

昔、住環境コーディネーターの資格を取ろうとしたことがあります。
福祉関係の資格で、こういったところに手すりをつけるといいよ、とアドバイスをする資格です。でも「いぶきのいる環境でできるわけないじゃん」と反対されました。子どもは母親がみるという固定概念があって、なおかつその子どもに障害がある、誰が見るの?って。
いぶきのものを作ることはそんなに言われなかったので、徐々にゆっくり理解してもらいました。

 

―――周りのママ友で在宅で仕事をしている人はいますか?

訪問看護師さん経由で同じ障害を持つお子さんのお母さんと知り合って、palette ibu.のパンフレットのイラストをお願いしたことがあります。
依頼するまでは仕事に消極的で、イラストを描く気持ちが起きなかったそうですが「障害を持ち医療的なケアが必要な子どものイラスト」というご自身の経験を活かせるイラストを書くことで、再びデザインの仕事ができるようになったと言っていました。何度か訪問看護ステーションなどで参加型の美術のワークショップを開いているそうです。

 

―――ステキなエピソードですね!

当時(2017年)はInstagramも普及していなかったので、表立って「障害児をもつママでも○○ができる」というのはありませんでした。実際に活動している人がいると「自分もできるかも?」と思えますよね。

palette ibu.のかわいさの秘訣

―――palette ibu.は魅力的な商品がたくさんありますよね。特に刺繡が繊細ですごい!

刺繍はどうしても細かくなってしまいますね。あんまり刺繍を入れすぎると重くなったり生地が固くなったりするので、シンプルにかつ直径7cm以内でどうかわいさを詰め込むかを意識しています。

青べこ

palette ibu.ペグカバー「青べこ」

キジトラ猫

palette ibu.ペグカバー「キジトラ猫」

―――デザイン画も書いているんですか?

はい、iPadで書いています。アイデアを得るために100均で市場調査をしたりもしています。100均は回転率が高くてターゲット層もしっかりしているので、今どんなものが流行っているのか参考にしています。
あとは、インスタで購入するご家族(20~30代)世代が手に取りたいと思うデザインや色の雰囲気を調べたりしています。

 

―――作る前の段階でしっかりリサーチをされているのですね!

夜や土日に息抜きがてら行っています。

 

―――どのくらいでひとつの商品を作り上げるのですか?

2日で形になりますね。1日で作って、少し寝かしてから作ったものを見直すようにしています。写真取りや商品のアップを含めると1週間くらいです。

palette ibu.を広めるために行った工夫

―――そういった過程を経て、多くの方の手に届いているのですね。たくさんの方にpalette ibu.を広げた工夫はどのようなものがありますか?

展示会に足を運んで出店したのが一番大きかったかと思います。
安心して使ってもらうには、生地の感じなどを実際に手にとって見てもらいたいと考えていたので、できるかぎり出店するようにしていました。

展示会の様子

展示会の様子

展示会の様子

展示会の様子

 

―――写真上で見るのと実物を手に取れるのでは全然違いますね。

インターネットだと伝わらないことも多いですよね。
かといって、展示会に来れるのはごく一部のお母さんお父さんだけ(お子さんを移動できたり単独で情報収集している人)だと思っているので、購入した商品を持ち帰ってSNSや学校で広めてもらうことを期待しています。

 

―――実際に使っているところを見て他の人にも広がっているんですね。

わたし自身、ずっと介護をしていて家から出るのが難しく、積極的に外に足を運ぶことができないので、代わりにお母さんたちにやってもらえる方法はないか?と考えたときに浮かんだのがSNSでした。

instagram_palette.ibu

palette.ibu.のinstagram

大変だったこと

―――palette ibu.の活動の中で大変だったことはなんですか?

企業勤めをしたことがなかったので、対企業に対してどうアタックしたらいいかわからず大変でした。営業やメールの定型文などのビジネスマナーがついていけず、飛び込むのに勇気がいりました。
企業によってはわたしのような個人を相手にしないところもあってへこんだこともあります。
反対に、受け入れてくださる企業には助けられました。

 

―――すごい!ご自身で企業にコンタクトをとっているんですね。

「ちゅーぶら」という胃ろうチューブ専用ブラシを作ろうとしたとき、自分ではブラシを作れないのでブラシ工場に連絡して、何センチでここまで、という企画書を書いて送って製品化にこぎつけました。
工場は全国、自分で探しました。HPをみると個人でも受け付けできるか記載があったりするのでそこをみたり、あと古そうなHPだと無理そうだなと予想したり、門構えを参考にしています。
あとは、作りたいものをつくれる工場なのかも見ています。ひとりで作れないときは、どう周りの人の協力を得て製品化できるかを考えます。

いちご赤ちゅーぶら

palette ibu.ちゅーぶら「いちご赤」

目玉焼き

palette ibu.ちゅーぶら「目玉焼き」

 

―――HPって大事ですよね。palette ibu.のHPのデザイン、とってもステキです。HPもご自身で作られたのですか?

はい。デザインはデザイナーの友人にお願いして、他は自分で組み立てています。

パレットイブHP

palette ibu.のHP

パレットイブスマホ

palette ibu.のHP(スマホ版)

―――もともとウェブの技術はあったのですか?

全然ないです、シロートです(笑)少しでもコストを削減しようと、インターネットで調べながらやっています。
特に写真が難しかったです。商品の色味を出せるように光の加減をしたり、画像処理で背景を透明化したりと大変でした。

 

―――palette ibu.をはじめたときからウェブを使っていたのですか?

最初からウェブでしたね。お店を持てないので、家の中でできることを第一に考えたときにネットショップだと思いました。SNSは、Instagramは写真で拡散、FacebookとTwitterはニュースになった記事をシェアして拡散、と使いわけています。

やりがいや嬉しかったこと

―――商品を購入される方はリピーターの方が多いのですか?

そうですね、購入者の7~8割はリピーターさんです。新商品を出すたびに買って下さる方もいて、逆にこっちが心配になるくらい(笑)とっても嬉しいです。

 

―――購入者がファン化していますね!

購入してくださった方にメッセージカードを手書きで書いているのですが、名前を書くときに「あ、書いたことある名前だ!」ってなると励みになるし、嬉しいです。

お子さんについて

―――お子さんはいま小学5年生とうかがいました。アンリーシュで現在就学問題に取り組んでいるのですが、学校はどう通ってらっしゃいますか?

訪問籍で週2回1時間半、家に来てもらっています。体を動かすと感染リスクが高くなるので、子どものためにも最初から訪問一択でした。

 

―――訪問ではどんなことをしているのですか?

6月は学校行事で運動会があるので、自宅で運動会の練習をしています。空気が入った袋を指で動かすとボールが投げられる機械があって、それを使っています。運動会は約1年半ぶりに学校にスクリーグする予定です。
教材は絵本が多いですね。

 

―――お子さんが在宅に移行されたのは何歳ですか?

1歳です。そのとき(2011年)は、今みたいにブログをやっている人もいなくて情報がありませんでした。昔はアナログに病院や医師からの紹介で情報を得ていたのですが、個人情報保護法ができて教えてくれなくなってしまって。情報がないなら自分の情報を発信すればいい、わたしみたいな人他にも絶対いる!と思ってブログを始めました。それがパソコンを触るきっかけになりましたね。

奥井さんから一言

―――最後に奥井さんから一言お願いします。

アンリーシュは、写真や言葉で伝わらないとことを映像として発信されていてすごいなと思います。家族だけでなく、その周りをとりまく人にも伝わりやすいです。

palette ibu.の活動をする中でいろいろなことがありましたが、大切にしていることは自分の軸をぶれないようにすることです。個人事業主としてそこは覚悟をもってやっています。
これからも子どもとその家族のためにこれからも頑張っていこうと思います。

palette ibu.について

代表責任者:奥井 のぞみ

ホームページ:https://www.paleibu.com/

メールアドレス:ibu.cuddly@gmail.com

電話&FAX:050-5275-2598(平日10:00~16:00 土日祝休み)

編集後記

白一色、無地ばかりになってしまう、医療的ケア児グッズをカラフルにかわいく彩ってくれるpalette ibu.の商品。そのステキな商品の裏には奥井さんのたくさんの工夫や努力がありました。たくさんのファンがいるのも納得です!

今回のインタビューを通じて、palette ibu.と奥井さんの活動には、かわいいグッズを利用できるということだけでなく、自宅でケアをしながら仕事ができるという医ケア児の家族の希望にもなると思いました。

今後もアンリーシュはpalette ibu.を応援していきます!

ライター紹介

山本みどり

2014年看護師、保健師免許取得。2019年よりライター活動開始。
大学病院小児科、保育園、小児訪問看護ステーションでの勤務経験あり。
 
「その子らしい成長・発達をサポートする」をモットーに、日々看護師として働きながら執筆活動を行っています。

自サイト「Kids care(キッズケア)」にて、子どものケアについて発信中。

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