*この記事は、埼玉県朝霞市の居住型訪問保育事業の開始について取材したものです。市民の目線をインタビューした記事の続編となりますので下記の記事も一緒にお読みください。
朝霞市が医療的ケアが必要な子供の保育を実現するため、居住型訪問保育事業を導入した。
この導入の裏には、朝霞市在住の中田陽代さんの2年間に渡る活動と、それに動かされた多くの人の協力があったという。
アンリーシュではこの事業化までの道のりと携わる方の思いを独占取材に成功。
中田さんはじめ、朝霞市 こども・健康部 保育課主幹 兼 課長補佐 平塚誠さんと保育課 保育係の奥山かおりさん、そしてすぎたこどもクリニック 杉田正興先生を迎えてお話を伺った。
目次
居宅訪問型保育事業実現に向けて
医療的ケアがあるお子さんの窓口での対応は以前から行なっていました。今回のケースも何年も窓口を通して保育の要望を伺っていました。
ただ、集団保育が難しいお子さんに対しての受け入れはこれまでは朝霞では難しく、お断りをしているのが現状でした。
今回具体的な要望がお母さん達からあがってきたこと、そして受け入れ先の事業所が見つかった事で居宅訪問保育型事業の導入が可能になりました。
集団保育が難しいお子さんにも、保育を届ける
ただ、いざ実行という時に具体的に実施しているところが都内のフローレンスさんしかなかった事、本市で実施してくれる事業所を見つける事にハードルがありました。
お子さん一人一人の状況にあわせた保育を行うためです。
朝霞市では以前から育成保育として障害児の受け入れを積極的に進めていました。
集団保育が可能であるお子さんは集団保育の中で育つことが望ましいと思います。
しかし、感染症対策の問題や安全面の課題で集団保育が難しいお子さんもいらっしゃいます。
その状況を見た時に、今ある子ども・子育て制度の中で居宅訪問型保育事業を活用してはどうかという切り口に進んでいきました。
事業所とはどう実現まで連携を取っていったのでしょうか?
この事業所とは開所当時からお付き合いがあって、医療的ケア児の受け入れ経験はないが、とても前向きに、障害を持つお子さんの保育園への受け入れや環境整備に取り組んでいる姿を拝見していました。
そこで、「この事業所さんなら」と判断し、受け入れを相談しました。
事業所側も医療的ケア児を受け入れる為の準備をし、保育者としての研修を受け、お子さんの状態をしっかり把握し、受け入れ体制を整えてきました。
今回、中田さんが会を立ち上げて動いた事は、事業導入に大きな影響を与えたのでしょうか?
そういった意味で、中田さんが具体的に会を立ち上げて要望書を提出して、お母さん達の繋がりを作ってくれた事は大きな後押しになりました。
「子育てがしやすいまち」朝霞を目指して
第一に保育園を申し込まれるお子さんは分け隔てなく受け入れていきたいという想いがあります。
お子さん一人一人状態は違うので、健常のお子さんのみ、または障害のお子さんに特化するなどではなく、状態に合わせて実現していきたい。
道はたくさんあるのでその道を広げていくことが市の役割だと思っています。その中の一つが今回の動きだったと思うし、中田さんが今回会を立ち上げて要望をあげてくれたことも大きな後押しになりました。
居宅訪問型保育事業は、今回がスタートです。市の考え・保護者のニーズ・受け入れ先の事業所、この三者のいずれかが欠けても実現は難しかったと思います。
今回の事業が軌道に乗れば、受け入れ先の事業所にもご理解を頂きながら事業を進めていければと思っています。
朝霞市に転入してもらえるのはとても嬉しいことです。本市の人口は増え続け、現在14万人を超えました。
我が市のスローガンは「子育てがしやすいまち」です。朝霞市は現在、未就学児の人口に対して保育園の受け入れ割合は4割強となっています。それだけお子さんの数が多く、時代の流れとしてお母さんが働く家庭も増えています。
待機児童0を目指して、今後も保育施設だけでなく子育て全般に関する施設を進めてまいります。
医療従事者の役割と今後の拡がり
今回杉田先生からみて、一連の取り組みについてどのように感じてらっしゃいますか?
一方でこういった取り組みを実現するのに前提として必要になるのは地域を支える医療者側の受け入れ体制です。
しかしこの地域全体を見た時に、在宅の医療的ケア児の受け入れは充分とは言えないと思います。
そういった課題をクリアする為に、医師会として4年前に「朝霞地区小児在宅医療協議会(ASZ)」を立ち上げました。
次に、小児の在宅診療を進める事です。
協議会発足当初は、この朝霞地区で小児の在宅診療を行なっているところはありませんでした。そこで、新しい取り組みとして成人の在宅診療として開業しているところに、小児科のドクターを派遣して小児在宅医療を行う試みが始まっています。
医療的ケア児の人数を把握する仕組み作り
どうして人数把握が難しいのでしょうか?
在宅医療が必要なのにも関わらず、大学病院などから直接自宅に戻った後、行政や地域医療と全く繋がらずに生活している家庭が見受けられます。
医療的なケアが必要なお子さんには、病院から退院する際に訪問看護ステーションの紹介があるのですが、かかりつけ医や保健所などへの連絡が行われていないケースがあります。
そこで私たちが医療的ケア児の人数を把握する際、現状では地域の訪問看護ステーションから情報を得ることが一番有力な方法になっています。
その問題に先生はどうアプローチなさっているのでしょうか?
まずはこの体制を変えるため、医療的ケア児が退院する際には、病院から県の保健所に一報入れるなどのしくみ作りを進めています。県の保健所が地域の受け皿をコーディネートする役割を担ってほしいと思います。
チームで繋がり医療的ケア児の生活を支える
個人的には今後先生達には、育成保育申請時に提出する医師の診断書について、医師と自治体間で見解の差が生じないようにサポートなどもお願いしたいです。
ただ、大学病院だけでは家庭の様子など十分な情報提供は難しい面もあるでしょう。
日頃から訪問看護ステーション・保健所・かかりつけ医と地域の連携を深め、お子さんと家庭の状況を正しく把握する事が、今回のような制度をスムーズに活用する一助になるでしょう。
そういうことが実現できるんだと知らない市民はたくさんいるでしょうから、これをきっかけにほかの地方自治体でも広がっていってほしいと思います。
また、杉田先生からお話頂いた地域連携は国全体の課題でもあると感じています。
これをきっかけに各地域で取り組みを見直すきっかけになればと思います。
皆様、今日はお話ありがとうございました。
本日は貴重な機会を頂きありがとうございます。
僕が知る限り、医療的ケア児の居宅訪問型保育事業を導入しているのは、これまで東京都のフローレンスだけでした。
シンプルにすごいなって思ったんです。
以前から医療的ケア児に対する取り組みはあったのでしょうか?