【子どもの たんの吸引 とは】吸引の基礎知識と注意すること

たんの吸引とは何か?

たんの吸引とは、鼻、口、のど、気管内などに溜まったつば・痰・鼻汁などの分泌物を、吸引器という器械を使用して取り除く医療的ケアです。

吸引には以下の3つの方法があります。

  • 鼻の穴から吸引カテーテルを入れる「鼻腔内吸引
  • 口の中に吸引カテーテルを入れる「口腔内吸引
  • 気管カニューレ内に吸引カテーテルを入れる「気管内吸引」(気管切開をしている場合)

なぜたんの吸引が必要なのか?

気道内に分泌物がたまると呼吸がうまくできなくなり、肺の一番大切な仕事であるガス交換(酸素と二酸化炭素の交換)が正常に行われなくなってしまいます。

子どもに病気や障がいがあり、

  • たんを吐き出すための強い咳ができない
  • 気管切開、気管内挿管をしていて、気道内の分泌物をうまく自分で出せない

などの場合、たんや分泌物を吸引してあげる必要があります。

吸引の適切な回数ってあるの?

吸引は、回数の指定や、1日に何回までという制限はありません。

たんが出てきたら、その都度吸引します。

体調が悪かったり風邪を引いている時などは、1時間に何十回、ひどいと一日中吸引が必要な場合もありますが、逆に元気で吸引を必要としない時もあります。

たんの吸引が必要な病態や病気

子どもでたんの吸引が必要な病態や病気は、主に以下の4つです。

  1. 先天性疾患や脳性麻痺などの重症心身障害児で、嚥下障害や弱い咳き込みしかできない場合
  2. 事故による脳外傷や脳血管障害、低酸素血症による重度の脳障害があり、嚥下障害や弱い咳き込みしかできない場合
  3. 脳梗塞、脳出血、筋ジストロフィー等の筋疾患、進行期パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症等の神経変性疾患で、嚥下・呼吸機能に障害が出ている場合
  4. 気管切開や気管内挿管をしている場合

こんな時にたんの吸引が必要になる!

では、吸引が必要な子どもが、主にどんな状態になったら吸引をするのか?代表的な状態をまとめました。

  1. 胸から「ゼロゼロ」「ゼコゼコ」などのたんがたまっている音がする時や、胸を触ると分泌物が振動している感じがするにも関わらず、子どもが自力でたんを出せない場合
  2. 呼吸数が増加する、浅くて速い呼吸になる、肋骨の間やみぞおち辺りが呼吸の度に凹む(陥没呼吸)などが起こる
  3. サチュレーションモニターをつけている場合に、血中酸素飽和度(SPO2値)が低下する
  4. 人工呼吸器のアラームが鳴り、気道に分泌物がたまったことによる「気道内圧上昇」や、「換気量低下」などの表示が出る
  5. 子どもが吸引をして欲しいという意思表示。例えば、『痰取ってと言う』『苦しそうな顔をしている』『手を首の辺りに持ってくる』などの言動、表情、行動をする。

吸引は、例えば1時間に1回などと決めてしまうと、「はい、12時になったから吸引の時間」と、別にたんの音もしてなければ、SPO2値も低下していないのに吸引をする、とルーティーン化してしまうことがあり、これは子どもにとって苦痛でしかありません。

本来は上記のような状態になった時に、「息が苦しいの?」「たん取る?」とやりとりをしながら、「じゃあ吸引するね」と吸引をするのが望ましく、これはどの看護ケアでも同様です。

子どものたんを吸引する時に注意すること

ここでは全ての吸引(鼻腔内吸引、口腔内吸引、気管内吸引)時に共通する注意事項をまとめました。

感染予防のために消毒をする

吸引前には手洗い又は消毒をし、吸引物品も消毒しましょう。

チューブが詰まらないように水分補給

吸引前に、たんをやわらかくするために水分摂取を促したり、口もしくは気管カニューレ挿入口から霧状の薬吸入してあげましょう。

子どもの姿勢を調節する

子どもが自分でたんを出しやすくするため、「座って少し前かがみになる姿勢」や、「お腹を下にして顔は左右どちらかに向く姿勢」をとらせます。
(人工呼吸器を装着している場合は、チューブが取れるのを防ぐため左右どちらかに横に向く方が安全)

これによりたんが気管の上の方に移動し、吸引の回数が減ります。

気管内吸引の場合は、必要に応じて鼻腔内・口腔内吸引も行う

気管内吸引をする場合は、その前に必要に応じて鼻腔内・口腔内吸引を行いましょう。(鼻水や唾液のたまり具合により、どちらか一方の時もあれば、両方必要な場合もある)

これにより気管にたんが入るのを予防します。

基本的に吸引の順番は、①口腔内②鼻腔内③気管内 です。

ただし①と②の順番ははっきりと決まっているわけではなく、ケアする側の考え方で変わります。

カテーテルの長さや吸引圧に注意する

吸引カテーテルは決められた長さを挿入し、適切な吸引圧に設定しましょう。

気管チューブが当たったり、吸引圧が強いことで粘膜が傷つくと、出血や傷を修復するための肉芽ができてしまいます。

肉芽とは、傷を修復するために作られる新たな粘膜のことで、非常に柔らかく出血しやすいものです。

さらに、肉芽ができた場所が何度も傷つくと、肉芽の上に新たな肉芽ができて次第に大きくなってしまいます。

気管の内部が肉芽で狭くなると空気の通りが悪くなるので、肉芽を作らないように注意が必要です。

適切な吸引圧について>

基本的な吸引圧は決められています。医師から指示がある場合はその通りにし、特別医師から指示がなければ、決められた吸引圧の範囲で自己調整をします。

術後や出血しやすい時は吸引圧は低めに、また嘔吐や吐血で気道閉塞の危険がある時などは高めに設定します。

決められた吸引圧は、

成人13~20Kpa(100〜150mmHg)

小児10〜13Kpa(80〜100mmHg)

新生児8〜10Kpa(60〜80mmHg)です。

吸引時間はなるべく短く

吸引することで一時的に身体の中の酸素量が減ってしまうので、吸引時間は短ければ短い方が望ましいとされています。

子どもの場合、1回の吸引時間は10秒以内(大人は15秒)。1回の吸引で取りきれなかった時は、休息を入れて、数回に分けて吸引するなどの工夫をしましょう。

血液中の酸素量が低下すると低酸素血症になり、脈が速くなる、頭痛がする、呼吸数が増加するなどの症状が出ます。

鼻腔内吸引の時に特に注意すること

ここでは特に鼻腔内吸引時に注意することについてまとめました。

挿入するカテーテルの長さを守る

カテーテル挿入の長さは、鼻の穴から耳の穴+耳の穴から喉(顎先の延長線上)までを超えないようにします。

この長さを超えてしまうと、声帯や気管支が痙攣し、空気の通りが妨げられて呼吸困難となってしまいます。

子どもの姿勢に気をつける

鼻腔内吸引でカテーテルを挿入する時は、子どもの顎が天井を向くように首を後ろに倒します。

これは鼻から喉までの角度を緩やかにして、カテーテルが入りやすくする為です。

肩の下に丸めたタオルを入れる「肩枕」の姿勢も良いとされます。

カテーテルを入れる向きに気を付ける

吸引カテーテルは上に向けて入れないようにします。カテーテルの先0.5cmだけ上向きに入れ、その後、真っ直ぐ~斜め下に向けて入れます。

これは、鼻の上部は出血しやすいためです。

また、狭い方の鼻から吸引カテーテルを入れないようにしましょう。

口腔内吸引の時に特に注意すること

特に口腔内吸引時の注意です。

嘔吐反射(ゲエッとなること)の予防

のどの一番奥に垂れ下がっているのど仏と、その左右の奥の粘膜には吸引カテーテルは当てないようにします。

たんの吸引がうまくできない時の対処法

たんがうまく吸引できない時の対処法についてまとめました。

たんが固くて吸引が出来ない場合

たんが固くてうまく吸引が出来ない場合、湿度が低く乾燥していることや、身体の中の水分不足が考えられます。(水分不足になると排尿回数がいつもより少なく、色の濃い尿が出るなどの症状が出ます)

吸入する、加湿器を使用する、濡れタオルを掛けるなどして、たんを柔らかくしましょう。

水分補給が可能なら、麦茶やイオン水(OS-1)を少しずつ飲ませます。

去痰薬の内服を医師に相談しても良いでしょう。

吸引カテーテルが届かない場所に分泌物がある場合

体位ドレナージ・スクウィージングなどの呼吸理学療法を行い、吸引カテーテルが届く位置に痰を移動させましょう。

体位ドレナージとは、分泌物が貯留した部分を上にした体位をとることで、重力を利用して分泌物を移動・排出させる方法です。

スクウィージングとは、気道に溜まった痰をスムーズに出すための呼吸理学療法のひとつです。息を吐くときに、両手でしっかりと胸を絞り込むように押すことにより、肺の容積の変化と気流の変動に合わせて痰の排出を促します。

吸引時に何かがおかしいと思ったら

吸引をしていると、異常やトラブルが起こることがあります。対処法も合わせてまとめました。

たんの性状(色・量・固さ)がおかしい時とその対応

痰の色が黄色、緑色。濁りが強い、粘り気が強い、量が多いなど

感染が疑われます。その他の症状(SPO2値、発熱の有無、機嫌、食事・水分摂取状況など)と合わせて医師に連絡しましょう。

痰が固いなら吸入をしてカニューレの閉塞を予防します。

 

痰の色がうっすら赤色、もしくは明らかに赤色

傷ついた粘膜からの出血が考えられます。

少量の血液が混ざっている程度なら様子観察。

真っ赤な血液の場合は緊急性が高い為、至急医師に連絡します。

吸引時・吸引後の子どもの状態がおかしい時とその対応

呼吸状態が悪化している。SPO2値が低下したまま上昇がない場合や、呼吸回数の増加、1回換気量の低下

吸引後も呼吸の音に改善がみられない、呼吸時の胸の動きがいつもと違うなど、元気な時と何かが違うと感じたら、迷わず医師に連絡します。

SPO2値が低ければ酸素投与、人工呼吸器を使っていれば100%酸素フラッシュを行います。

 

心拍数が低下している

1回の吸引時間が長いと低酸素血症を引き起こし、低酸素血症により心拍数が低下します。

直ちに吸引をやめて、呼吸の音、呼吸時の胸を動き、呼吸回数、SPO2値、意識の有無などを確認し医師に連絡します。

酸素投与、100%酸素フラッシュを行います。

 

咳が出始めて止まらなくなる

補助的に酸素投与を行います。

気道の刺激により咳が誘発される為、吸引カテーテルの適切な挿入の長さを確認しましょう。

吸引時間を短くし、1回の吸引毎に休息を与えます。

気管支拡張薬等の使用について医師に相談しましょう。

<出典>

①『新人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

② 日本呼吸療法医学会: 気管吸引ガイドライン2013

ライタープロフィール

ライター名
ゆっこ

経歴     
16年間、看護師として大学病院・看護専門学校教員・訪問看護など様々な現場を体験。
得意分野は救急看護。

現在は、9歳、5歳の子供を持つ2児の母。
5歳の子供は医療的ケアを行っている。