(読み方)いりょうてきけあ
目次
医療的ケアとは
医療的ケアとは、病気や障がいなどにより低下した体の機能を、医療機器を使って補助することです。
「日常生活を送る上で必要とされる、衛生管理に関する医療行為」を指します。
医療的ケアが必要となる原因
医療的ケアが必要となる原因は、
- 先天的・後天的な病気によるもの
- 事故によるもの(出産事故、交通事故、溺水事故、誤嚥窒息事故等)
などがあります。
医療的ケアを行うことができる人
医療的ケアは医療行為の一部とされていますが、医師が行う専門的な治療行為とは異なります。
日常的な介助行為であるため、医師や看護師以外の資格を持たない保護者や、本人が行うことが許されています。
さらに、2012年4月から介護保険法が改正され、一部の医療的ケア(特定行為)に限り、一定の研修を受けて認定された介護士や特別支援学校の教員等が行うことが認められるようになりました。
医療的ケアの具体例
呼吸に関する医療的ケア
- 人工呼吸器
自力での呼吸が困難な場合に、肺に空気を送り込む器械が人工呼吸器です。顔につけるのは、鼻マスク、口鼻マスク、顔マスク、マウスピースとさまざまな種類があります。
- 気管切開
のどに穴をあけて気管にカニューレという管を差し込み、新たな気道を作成して呼吸が楽にできるようにします。
気管切開をした上で、人工呼吸器を使う場合もあります。 また、気管カニューレの定期的な交換や、気管カニューレを固定するバンドの交換(1日1回)、気管切開口周囲の皮膚を清潔に保つこともケアに含まれます。
- 経鼻エアウェイ
鼻からのどまでやわらかいチューブを挿入し、空気の通り道を作ることです。 主に睡眠時に使用することが多く、呼吸障害の改善や、睡眠を安定させる目的があります。
これにより、気管切開をしなくてすむ場合もあります。
- 痰の吸引
口、鼻、のどに溜まった唾液や痰を、電動吸引機で取り出すことです。
吸引するためのチューブは鼻や口から入れます。気管切開をしている場合は、気管カニューレから挿入します。
-
在宅酸素療法
心臓や肺の病気が原因で、自分の呼吸では十分な酸素を取り込めない場合に、酸素濃縮器や酸素ボンベを使って酸素を補うことです。
器械に接続したカニューレを鼻の穴に差し、そこから酸素を吸入します。
栄養に関する医療的ケア
- 経鼻栄養
鼻から胃や腸までチューブを挿入し、流動食や薬を流し入れることです。
挿入したチューブは、位置がずれないように顔にテープで貼り固定します。
- 胃ろう
手術によりお腹と胃に穴を開け、その穴にチューブを差し込み、そのチューブから流動食や薬を流し入れることです。 - 口腔ネラトン法
食事の時だけ口からチューブを入れ、そのチューブから流動食や薬を流し入れることです。
常に顔にチューブが固定されている違和感は軽減されます。
- 中心静脈栄養法
鎖骨の上を切開し、そこから中心静脈という心臓近くの太い血管の中にカテーテルという管を差し込み、生命維持や成長に必要なエネルギー、各種栄養素を点滴という形で補給することです。
排泄に関する医療的ケア
- 導尿
膀胱に指令を出す脊髄などの神経系の障害が理由で、尿がうまく出せない場合に、尿道口からカテーテルを入れ、尿の排出を助けることです。
- 人工肛門
お腹に穴を開け、腸の先端をその穴まで引き出して出来た、人工的な肛門のこと。
その穴に専用の袋を取り付け、便が溜まったらその都度袋を交換することが必要。また、その穴の周囲の皮膚を清潔に保つこともケアに含まれる。
医療的ケア児とは
医療的ケア児とは、医学の進歩を背景として、NICU等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な障害児のことです。
0~19歳の歩ける医療的ケア児から寝たきりの重症心身障害児まで、全国で1.9万人(2018年)いると言われています。
※医療的ケア児等の支援に係わる施策の動向-厚生労働省より
医療的ケア児が直面する問題
家族の介護負担
在宅ケアでは、医療的ケアのほか、使用する器具やそれに付随する道具の調達や、メンテナンスも必要になるため、家族の負担は非常に大きくなります。
そのため、親が離職しなければならないケースも多く、自宅以外で医療的ケアを受けられる施設のニーズが高まっています。
しかし現在は、NICU退院後の医療的ケア児の受け入れ先は殆どなく、一時預かりさえ難しい状況です。
訪問看護を利用するという選択肢もあるが、小児を専門に扱える看護師は全国的に不足しており、医療的ケア児の増加に追いついていないのが現状です。
就学・就園の問題
医療的ケア児が成長すると、就園・就学問題に直面します。
医療的ケア児が通える保育園や幼稚園が見つからないのです。
保育園や預かり施設では、軽度の障害のある子どもの受け入れはしても、医療的ケア児の受け入れ態勢はほぼ整っていません。
吸引や経管栄養、酸素吸入などの医療的ケアを保育の場で行うには、看護師を配置する必要があるが、看護師を保育施設に配置する余裕がありません。
就学についても同様で、通常学級、特別支援学級共に、看護師を配置するか、それが叶わなければ、家族が付き添い待機するかのいずれかになります。
結局、家族の負担は減らないのが現状です。
医療的ケア児が暮らしやすい社会に向けて
そもそも、小児の在宅医療を支える社会の仕組みや医療的ケア児を総合的にマネジメントする仕組みが未だ整備されていないことが問題であり、早急な対策が必要です。
就学児になれば、学校などの教育機関との連携も求められるため、医療的ケア児を支える仕組みはより複雑になります。
切れ目ない支援を行うには、専門のケアマネージャーが介入し、医療・福祉・子育て支援・教育が一体になってサポートしていく仕組みづくりが重要です。
今後も増えていくであろう医療的ケア児とその家族を支える社会的支援のさらなる充実が求められています。
出典・参照
【ライター&監修】
ゆっこ
【経歴】
看護師歴17年目。大学病院では、救命救急センター、外来、病棟、透析センター、内視鏡センターで勤務。その他に看護専門学校教員、訪問看護など様々な現場を経験。得意分野は救急看護。
2020年からはフリーランスとして、看護師ライター、看護師シッター、オーダーメイド看護、イベント救護室、健康相談員として幅広く活動している。
プライベートでは、9歳、5歳の子どもを育てる2児の母。
5歳の子どもは先天性声帯狭窄症で気管切開をしている医療的ケア児。都内の認可保育園に看護師配置のもと通園している。就学前の抜管に向けて治療中。
自身の経験をブログで発信中。