体温調節が苦手になった息子のために…「体圧を分散させるクールまくら」を作るまで

はじめまして。低酸素脳症の息子とおてんば娘(妹)と共に暮らしています、むーと申します。

息子は現在中学2年生になりました。

息子は事故で心停止してしまった後遺症で低酸素脳症になり、寝たきり、嚥下障害があり、意思疎通も難しくなってしまいました。

必要な医療的ケアは、胃瘻、気管切開(口頭気管分離済)の気管内吸引、口腔内吸引です。

また、後遺症により体温調整が難しくなり、とても暑がりになってしまいました。

息子の耳にできてしまった褥瘡を何とかしたいと思った

体温調節ができない人にとって、冷却グッズは欠かすことができません。

当時10歳(小4)だった息子は、まだ口頭気管分離の手術をする前で誤嚥がひどく、座っていると唾液が気管に流れ込んでしまう為、一日のほとんどをベッドで横になり唾液を出せるようにして過ごしていました。

持続吸引器という物もあるのですが、息子は管を噛んで唾液が余計に増えてしまう為、使用できませんでした。

そして、体温調整が難しい為、1年中アイスノンを頭に敷いて過ごしていました。

一日のほとんどを寝て過ごすため、アイスノンによって圧を受けた耳が赤くなり、そのうちに耳周辺に褥瘡ができるようになってしまいました。

ただでさえ自分で動けず苦しい上に、頭を冷やされ耳が痛くなり褥瘡になる。

日頃、介護者が気づけていない不満もあると思います。

少しでもそれを無くしてあげたくてリハビリの先生などに相談して色々してみるのですが、なかなか難しくて悩みの一つでした。

耳にこのように褥瘡ができてしまっていました

アイスノンのメーカー白元が協力してくれた

ある日、毎日使用していたアイスノンのメーカーに、何をしても良くならない耳の褥瘡、そして褥瘡はできてしまうがクーリングは外す事ができない、何か良い方法はないかと相談をしてみました。

「事故の後遺症でアイスノンが手放せなくて過ごしている子供がいるのですが、耳が褥瘡になってしまうので、耳の部分に穴が開いた物を作っていただけないでしょうか?なかなか難しいとは思いますが、ご検討いただけたら嬉しいです。」

このような内容の相談メールでした。

息子はいつも苦しい思い、痛い思いをたくさんしなければならない生活だったので、せめて眠る時ぐらいは快適に過ごさせてあげたい。

それが一番の気持ちでした。

すると、担当さんから連絡があり、なんと東京から私の自宅がある静岡まで、わざわざ出向いて下さる事になったのです。

息子が実際にアイスノンを使用している姿を見て下さり、それにより耳が痛くなっている所も見て頂きました。

肩幅や耳のサイズも細かく測って下さり、そして「今回は息子さんの為に製作してみようと思います」と言って下さったのです。

そして、リハビリの先生に意見を聞きながら何度も打ち合わせを重ねて半年。

一つのアイスノンが出来上がりました。

耳の部分には穴が開き、首が当たる所はゲルが逃げないようにパウチをかけてくださいました。
すべて手作りなのです。

困り果てた末、私のワガママで意見を送らせていただいたのに、ここまでしてくれるのかと感動しました。

こちらを使って過ごすうちに、耳の褥瘡は良くなっていきました。

同じように褥瘡で悩む子どもたちのために商品化を考えるように

この枕を色々な所で使ううちに、周りの友達から「これいいね!」「うちも欲しい!」といった声がたくさん聞けるようになりました。

同じように褥瘡に悩む子供達の話はずっと聞いていたので、周りの子供達にも使ってほしいと思い、次は販売に向けて再度、アイスノンのメーカーへ相談してみました。

しかし、この枕は息子の為に色々と考えてくださった物でした。

なので、周りの同じ悩みを持つお子さんの為に商品化を・・・という話は、なかなか難しいというお返事でした。

例え商品化する事になっても、とても高額になってしまう事。

また、全て手作業になるので、量産が難しい事などが問題のようでした。

協力してくれるメーカーが現れ、商品化への道が開けた

商品化を諦めきれない私は、協力してくれるメーカーを探し始めました。

打ち合わせなどもしやすいように自宅から近い静岡県内で、主人と一緒にインターネットで色々な業者を調べました。

そして、保冷剤を製造している「トライ・カンパニー」という、保冷剤で国内トップクラスのシェアをもつという企業を見つけ、そこへ相談してみる事に。

一度難しいと言われた話だったので、断られるのを覚悟していたのですが、担当さんがとても良い方で、自宅まで来てくださって親身になって話も聞いて下さり、「やってみましょう!」とおっしゃってくれました。

そして、カバーも欲しいという事になり、トライカンパニーさんからのご紹介で、「山本被服」という創業96年の老舗で作業服や事務服、サッカーJ3のスーツなども手掛ける縫製メーカーさんにご協力いただける事になったのです。

当初、完成するかどうかは分かりませんでしたが、この二つの企業さんの前向きなお気持ちがとても嬉しかったです。

そして、何度も話し合い、試作を繰り返し、2年かけてやっと商品が完成しました。



頭は冷やしたいけど冷やしすぎず、でも冷却時間は持続させたいという思いから、保冷材は2層構造です。

上の層は冷凍させても固くならない素材でできていて、触れる部分を優しく冷やす事ができます。

完成するまでに、友人、ドクター、理学療法士の先生、褥瘡外来の看護師さん、試作などの協力をしてくださった施設など、本当にたくさんの方達が協力してくださいました。

この話が進み始めた頃は、正直とても不安でした。

なぜなら、これまで私はこれだけたくさんの方と何かを作り上げるという事をした事が無かったという事と、元々たった一人の息子の耳を治したいだけの気持ちで始まった、ちょっとした相談内容の話だと思っていたからです。

それが、今目の前で商品になっている。

言葉では言い表せないほどの喜びと、周りの方への感謝の気持ちがありました。

金額を抑えるため、パーツのバラ売りを可能に

商品化が決まったまくらを見た時は、率直にとても不思議な感覚でした。

「褥瘡を何とかしたい」という一つの思いに対し、色々な方が関わって何度も何度も話し合い、初めは「医療的ケア」の事を全く知らなかった方も、こちらの意見を真剣に聞いて向き合ってくれました。

それらがとても嬉しかった事と、実際に頭に思い描いていたものが、今目の前にある。

何とも言い難い物でした。

ただ、一つだけ、金額が高くなってしまった事。これだけは、どうしてもクリアできませんでした。

これまで、障害がある子どもたち数人にサンプルを試してもらっていました。

その子どもたちも含め、周りでは完成をとても楽しみにしてくれている方達がいました。その方達の気持ちを裏切ってしまったような感じがしました。

とても良い商品ができたので、ここで終わりではなく、これから先は何とか安く提供できるように販売方法を考えていきたいと思いました。

そこで、どうしたら必要な方の所へ必要な形のクールまくらをお届けできるか考えた末、自分でショッピングサイトを作ってしまおう!と考えました。

自分の店を持つことによって、クールまくらのバラ売りも可能にすることができると思ったのです。

製造元のトライカンパニーさんには了承を得て、クールまくらはもちろん、それと同時に、医療的ケアに使う色々な雑貨。例えば、胃瘻カバー、カニューレホルダー、栄養ボトルのカバー等々。
それらも販売できないかと。

そして準備を重ね、オープンしたショッピングサイトが、Shop coshon(ショップ コション)です。

是非一度、覗いてみていただけたら嬉しいです。また、こんなものありますか?なども、お気軽にお問い合わせいただければと思います。

実際に使ってくれた友達の声が嬉しかった

商品を作るにあたり、息子だけではなくより多くの方の使用感を知るために、周りの友達にもサンプルを試してもらっていました。

その中のお二人のお母さんの感想です。

  • カバーの素材が表面、裏面共に肌触りが良く、ほっぺたが肌荒れしなくて良かったです。
  • 耳が圧迫されなくて、冷えすぎず赤くもならなくて良かったです。
  • 自分の子供がまだ4~5歳ぐらいの体型なので、サイズが小さいものがあると有難いです。
  • 車椅子に座って、頭や背中とかに使いたいので、オプションで固定できるバンド等があると、使える幅が広がると思いました。
  • 保冷剤を入れるところが分割されていて、冷やしたい部位のみを冷やせていいと思いました!
  • 値段が5〜7000円ぐらいまで下がれば、いくつも交互に冷やせていいなと思いました。
  • 結露しなくて清潔でいいと思いました。

今頑張っている人へ、少しでも癒しを

今回メーカーに声を掛けてから、クールまくらが出来上がるまでの事を振り返ってみると、最初は一人の寝たきりの子供のお世話をする、ただただ「普通の母親の悩み」からでした。

それが色々な方の助けや優しさに触れ、商品が出来上がり、快適そうに過ごす我が子を見て、他の子どもも助けてあげたいと思いました。

我が子の苦しみは、そのご家族が一番知っているはずです。

私の息子も、たくさん苦しんで苦しんで、絶対に辛いであろうことも乗り越えて生活していて、でも私たち親はそれを見ている事しかしてあげられなくて、とてももどかしい思いを何度もしてきました。

そして、息子と同じように今頑張っている人が世の中にはたくさんいるんだと気づかされました。

その人たちの為に、私に何か出来ることはないか。

それが今回、ショッピングサイトを立ち上げるまでの大きな原動力になったのではないかと思っています。

可愛い我が子でも、大切な家族でも、正直時々疲れてしまうのが在宅介護だと思っています。

頑張る方へ少しでも癒しを。

そして息子のようにちょっとした不快を感じている方がいたら、少しでも良いので快適な時間をお届けできたら嬉しいと思っています。

 

ライター:むー

ブログ:「在宅介護」することになりました。

ショッピングサイト:Shop coshon(ショップ コション)

 

アンリーシュでは、アンリーシュサポーターを募集しています。月々1000円からの寄付で、アンリーシュをサポートしませんか。

 

また、こちらのクールまくらは、以下のこども病院に配布されています。お近くの方は問い合わせてみて下さい。

  • 北海道北海道立子ども総合医療・療育センター(札幌市手稲区)
  • 岩手県もりおかこども病院(盛岡市)
  • 宮城県宮城県立こども病院(仙台市青葉区)
  • 茨城県茨城県立こども病院(水戸市)
  • 栃木県自治医科大学とちぎ子ども医療センター(下野市)
  • 獨協医科大学とちぎ子ども医療センター(下都賀郡壬生町)
  • 群馬県群馬県立小児医療センター(渋川市)
  • 埼玉県埼玉県立小児医療センター(さいたま市中央区)
  • 千葉県千葉県こども病院(千葉市緑区)
  • 東京都国立成育医療研究センター(世田谷区)
  • 東京都立小児総合医療センター(府中市)
  • 太陽こども病院(昭島市)
  • 神奈川県立こども医療センター(横浜市南区)
  • 長野県長野県立こども病院(安曇野市)
  • 岐阜県岐阜県総合医療センター小児医療センター(岐阜市)
  • 静岡県静岡県立こども病院(静岡市葵区)
  • 愛知県あいち小児保健医療総合センター(大府市)
  • 愛知県心身障害者コロニー中央病院(春日井市)
  • 名古屋第一赤十字病院小児医療センター(名古屋市中村区)
  • 三重県国立病院機構三重病院(津市)
  • 滋賀県滋賀県立小児保健医療センター(守山市)
  • 京都府京都府こども病院(京都市上京区)
  • 大阪府大阪府立病院機構 大阪母子医療センター(和泉市):
  • 大阪市立総合医療センター(大阪市都島区)
  • 中野こども病院(大阪市旭区)
  • 兵庫県兵庫県立こども病院(神戸市中央区)
  • 岡山県国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区)
  • 広島県県立広島病院成育医療センター(広島市南区)
  • 香川県四国こどもとおとなの医療センター(善通寺市)
  • 福岡県福岡市立こども病院(福岡市中央区)
  • 聖マリア病院母子総合医療センター(久留米市)
  • 大分県大分こども病院(大分市)
  • 鹿児島県鹿児島こども病院(日置市)
  • 沖縄県沖縄県立南部医療センター・こども医療センター(島尻郡南風原町)
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