3月16日、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の講堂にて、 医療的ケア児 者の主張コンクールが開催されました。
100名前後の来場者と報道関係の方が集まり、一人一人のスピーチに涙を流したり、笑顔になったり、会場は温かい雰囲気に包まれていました。
目次
医療的ケア児者の主張コンクールとは
医療的ケア児者の主張コンクールとは、これまでほとんど知られることがなかった、 医療的ケア児 者の声を広く社会に発信することを目的としたイベントです。
キッズファム財団(一般財団法人 重い病気をもつ子どもと家族を支える財団)が主催しています。
「未来の夢と希望を発信しよう」をテーマとし、8名の医療的ケア児者が日頃の想いや、将来への展望を語ってくれました。
学校に通いたいや一人暮らしがしたいなど当事者が抱えている悩みが浮き彫りになる一方で、歌って踊れるアイドルになりたいや大学に行ってもっと勉強したいといった将来の明るい夢も聞く事ができました。
また、今回のイベントでは全ての発表が終わって表彰式までの間、盲目のヴァイオリ二スト増田太郎さんのライブが行われました。
審査員と発表者
コンクールでは、8名の発表を3名の審査員が熱心に聞きながら、メモをとったりうなづいたりしている姿が印象的でした。
審査員
◾️認定NPO法人マギーズ東京 共同代表理事 鈴木美穂さん
◾️昨年開催のコンクールの準グランプリ 小山陽子さん開催
◾️ヴァイオリニスト 増田太郎さん
発表者とスピーチタイトル
①山田 萌々華さん 『すみれちゃんとわたし』
②髙橋 祥太さん 『僕の夢』
③福島 星哉さん 『僕と挑戦と未来』
④松本 奈成さん 『つながりの真ん中』
⑤野田匠さん 『今の私の生活とこれからについて』
⑥戸谷 百花さん 『じがかけるようになってつたえたいこと』
⑦木下裕介さん 『「あたりまえ」の大切さ~災害による停電時の医療的ケア~』
⑧田中 大貴さん 『僕らしく生きる』
関東各地をはじめ、石川県や福岡県からも医療的ケア児者が参加していました。
福岡からの参加者はコンクール初のライブ中継を行い、アンリーシュ が準備から当日の接続までサポートさせて頂きました。
表彰者のスピーチ
コンクールでは、グランプリ・準グランプリ・審査員特別賞の3つの賞が贈られました。
グランプリ : 髙橋 祥太さん『僕の夢』
髙橋さんは現在、特別支援学校の中学3年生。
筋肉の難病で人工呼吸器と車椅子を使いながら生活しています。
特別支援学校では珍しい、普通高校の受験を選択した経験を語ってくれました。
髙橋さんの夢は貿易会社で働くこと。
海外に出張しているお父さんの影響で、行ってみた事のない場所に行ってみたいと思うようになった髙橋さんは、普通学校への進学を希望します。
受験期間中は、普通高校を受験する同級生や先輩がおらずとても不安だった事。合格しても高校の勉強についていけるのか悩んだりもしたそうです。
しかし「すべ手の私立高校の面談で受け入れを拒否された。都立しか進学できない」そんな悔しい言葉をバネに、勉強に励み見事合格を勝ち取りました。
高校では、英語検定や漢字検定に挑戦したい。
また、一生懸命勉強して、大学にも進学しいろんな社会問題にも触れていきたいと明るい希望を語ってくれました。
一方で、医療的ケアがあることで一人通学が許可されず、一人通学できるようにしてほしいという想いも訴えていました。
特別支援学校の勉強だけでは勉強内容や量も全然足りないと思うので、たくさん家で勉強したり、情報収集したりと努力を続けたんだろうなと尊敬の気持ちで聞いていました。
今後同じように、呼吸器をつけていても普通学校に進学する子供達が増えていきます。
受験するにあたっての勉強方法や進学先との交渉・ご家族のサポートなど、高橋さんの貴重な体験をもっとたくさんの人とシェアできればと感じました。
私の娘も来年特別支援学校に進学します。
出来ることに制限を設けずに娘の可能性を伸ばしてあげたいと、勇気をもらえるスピーチでした。
高校合格、本当におめでとうございます!
準グランプリ : 戸谷 百花さん『じがかけるようになって、つたえたいこと』
ピンクの可愛い車椅子でお母さんと一緒に登場した百花さん。
最初、お母さんが百花さんと手を繋ぎながらスピーチしているのかと思ったら、百花さんがお母さんの手のひらの上で、指を動かし言葉を伝えていた姿にとても驚きました。
自分にあった言葉に出会い、世界が広がった体験を語ってくれました。
現在20歳の百花さんは6歳で気管切開を行いました。
文字を知るまでは目をパチパチさせて周囲に意思を伝えていたそう。
2年前に百花さんにあったコミュニケーション方法を教えてくれる先生に出会い、自分が文字で会話を取れる事を知り、たくさん練習を重ねたそうです。
練習を頑張った理由が、お母さんやヘルパーさんに感謝を伝えたかったから…というのを聞いて胸に込み上げてくるものがありました。
小さい頃は、お母さんが勉強を教えてくれる教室に通わせてくれて国語や算数、理科などたくさんのことを教えてくれて、そこがとても楽しい場所でした。
家では絵本を見えるように読んでくれたので、字がおぼえられました。
あいうえお表やかけ算九九も天井に貼ってありました。
しかし、学校に通いだしてからは体のケアが中心で勉強の機会が少なく、とても残念に感じたそうです。
これからの子供達にはもっとたくさん勉強の機会を与えてあげてほしいと訴えていました。
重い障害を持っていても、たくさんの感情や言葉や気持ちを持っています。
自分だけが特別なのではなく、障害があっても文字を書いたりコミュニケーションが取れる可能性はある。
その事を伝えるために、詩の本も出したそう。
最後は自分のような人がもっと言葉を伝えられるようになるよう、活動を続けていきたいという力強い言葉でスピーチは終了しました。
会場も「あれどうやってるの?」と言った声が所々からあがっていました。
百花さんの言葉で語られたスピーチは、百花さんの優しい人柄が伝わってきて温かい気持ちになりました。
私自身日々ケアに追われて、娘の感情やペースが置いてきぼりになってないかな?と振り返るきっかけになりました。
重たい障害を持っていても、コミュニケーションを取る方法はたくさんあるはず。 私達自身も、「話す」ことだけに依存せずいろんなコミュニケーション方法を学んで、もっともっと百花ちゃんのような人達ともお話し出来るようになりたいです。
審査員特別賞 : 福島 星哉さん『僕と挑戦と未来』
「障害者イコール弱者の概念を壊したい」という言葉からスピーチが始まりました。
4歳の時に交通事故にあい、人工呼吸器をつけて車椅子生活になったという福島さん。
1年間の入院生活の中で、友達と過ごす時間が自分のエネルギーになると感じ、1秒でも友達と過ごす時間を増やしたいと強く感じたそう。
おそらく日本で初めて人工呼吸器をつけて学校に通うなど様々なチャレンジを続けてきました。大学にも進学されていました。
22歳になった現在は自ら会社を立ち上げ、交通事故を減らすためのシステム開発に尽力するなど、さらなる挑戦の様子が伝わってきました。
障害を持っていても事前準備や工夫を行う事で、できる範囲が増える事を教えてくれました。
自分の意思をしっかりと持ち、それを実現していくバイタリティと障害者と健常者の壁を取り除き、当たり前に生活できる社会になる事を願う気持ちが伝わってきました。
ご自身が医療的ケア児になったきっかけである交通事故の軽減を使命として取り組む姿に、私ももっと仕事や人生に真剣に向き合うという気持ちになりました。
福島さんのインタビュー記事を見つけたので紹介します。 交通事故後も呼吸器をつけて以前の幼稚園に戻り、普通学校に進学した経緯が詳しく書かれています。
増田太郎さんによるヴァイオリン演奏
全てのスピーチが終わると、当日、審査員もされていた盲目のヴァイオリニスト増田太郎さんによるコンサートが行われました。
太郎さんは5歳よりヴァイオリンを始め、20歳で視力を失うも、「ヴァイオリンを弾きながら歌う」という独自のスタイルで音楽活動を展開しています。
クラシック、ロック、Jポップなど様々な音楽にマッチするヴァイオリンの魅力を実際の演奏を交えながら伝えてくれました。
また、ヴァイオリンで踏切やコンビニ・牛の鳴き声など音楽以外の音もたくさん再現してくれ、会場は笑いと驚きに包まれました。
最後には、冒頭の映像にも使用されたオリジナル曲「ぼくにはきみがいる」を披露。会場は温かな拍手に包まれました。
もうすぐ2歳になるお子さんそらめぇさんの息子さんも興味津々で一緒に楽しめました。
ヴァイオリン演奏と聞いて、ちょっと堅苦しい場をイメージしていたのですが、最初の数分で太郎さんの人間性とヴァイオリンの魅力にすっかり魅了されてしまいました。
まとめ
筆者は5歳になる医療的ケア児を育てています。
普段医ケア児のパパ・ママなど介助者の話を聞く機会はあっても、本人の想いを聞く機会は中々なく、本当に貴重な機会となりました。
お友達と過ごした時間が宝物なこと・もっと勉強したいこと・将来結婚できるように仕事に就きたいこと。
そんな言葉を聞きながら、どうしてそんな当たり前の事が中々実現しないのか悔しい想いが込み上げてきました。
医療的ケアや重い障害がある/なしに関わらず、同じ人間として無限の可能性を持っている事を改めて実感しました。
医療的ケア児者がもっと希望を持って、自分の意思で選択できる社会になるよう、このコンクールを一つのきっかけに考えを深め行動していきたいと思います。