医療的ケアについて誰かに説明するとき、ケアの方法や生活がどう変化するのかなど、口頭では説明しづらいことも多いですよね。
そんなとき、わかりやすく書かれた絵本を使うと、とっても人に理解してもらいやすくなります!
今日は、胃ろうについて書かれた絵本「ちーちゃんのおなかのあな」をご紹介します。
推薦してくださったのは、医療的ケア児のお子さんを持ち、かつ看護師でもあるさくらさん。さくらさんに、絵本の良かった部分、またどういう場面で絵本が役に立ったかなどを教えてもらいました。
ママのお名前:さくら
看護師として救急病院に6年勤め、子育てのために一旦離職。現在は5人の子育てをしながら、地域の学校で医療的ケア児を支える仕事をしている。
お子さんの医療的ケア:胃ろう
4番目の子どもが多合指症で生まれる。生後半年〜1歳で口からの摂取を嫌がるようになり、経管栄養を開始する。嚥下(飲み込む)機能に問題はないため、5歳まで様子をみるが、水分摂取ができるのみ。栄養を口からうまく摂れない状態が続き、令和2年11月に胃ろうの手術を行う。
目次
絵本を買ったきっかけ
こんにちは、さくらです。
私には6歳になる息子がいます。以前は経鼻経管栄養をしていましたが、令和2年11月に胃ろうを造設しました。
その時、
「息子の胃ろうについて知ってもらいたい」
「胃ろうの医療的ケアについて母だけが知っている状況ではいけない」
と強く思いました。また同時に、医療用語が並んだ難しい本では理解してもらえないから絵本にしようと絵本を探しました。
そこで、きょうだいや祖父母、保育園の先生方など息子に関わってくれる人たちに、説明する際にとても役に立ったのがこの絵本です。
「ちーちゃんのおなかのあな」絵本の内容
出生児 20,000 人に1人程度に発症する難病「チャージ症候群」をかかえた「ちーちゃん」とお母さんが、日々の食と生活をひた向きに楽しむ奮闘記が絵本になりました。
生まれつきの病気で口から食事をとることができないちーちゃんは、おなかのあな(胃ろうカテーテル)から栄養をとっています。それでも料理や食を少しでも楽しもうとするちーちゃんとお母さん。そのようすを描いた育児応援絵本が、クラウドフ ァンディングで多数の支持を得て出版決定!
絵本なので難しい医療用語もなく、絵で見て胃ろうの仕組みがわかります。胃ろうの良いところ・注意するところもこの1冊で知ることができます。
さらに、胃ろうを造った後の生活の変化まで書いてあるので、特にきょうだいなどは息子がどうなるのか想像がしやすかったようです。
そして私が一番ありがたかったのは、「経鼻経管栄養のチューブ交換」についても書かれていることでした。経鼻栄養のチューブ交換は子どもにとってすごく苦しいもので、息子も交換のたびに号泣していました。
ですが、実際にチューブを交換しているところを家族に見せることはほとんどありません。なので、息子の苦しさ、交換する側の大変さ、そして苦しんでいる我が子を見る親のつらさなどは、今までなかなか理解してもらえない部分でもあったのです。
それを絵本を通して知ってもらうことができ、「胃ろうにすればそのつらさがなくなるんだね」と、胃ろう造設をとてもポジティブに捉えてもらうことができました。
絵本を読んだ家族の感想
息子に胃ろうを造設すると決めたとき、息子のきょうだいや祖父母はあまりいい反応をしませんでした。
「お腹に穴なんか開けて大丈夫なの?」「手術って痛いんでしょ?それ本当にしないといけないの?」
など、胃ろうに対する「漠然とした不安」が多かったように思います。ですが、絵本を読んで、みんなの反応は変わりました。
<きょうだいの感想>
- 絵がわかりやすかった!
- 鼻から管がなくなるのが嬉しい。見た目がスッキリするのがいいね!
<叔父・叔母の感想>
- 胃ろうは寝たきりのお年寄りがやるイメージがあった。でも、こんなに元気で日常生活を送れるのに、胃ろうだけが必要な子がいるんだね!
- このような絵本があるということは、同じような子が世の中にはいっぱいいるんだなとわかった。
- 鼻チューブの交換の辛さを知ることができた。それがなくなることで、子どもや家族の負担が減るならとてもいいね。
<祖父母の感想>
- お腹の中の、見えない部分がどうなっているのかを知ることができてよかった。
- 胃ろうが必要なくなったら穴を閉じることもできるんだね。それを知って安心できたよ。
など、全体的に「わからないものに対する漠然とした不安」がなくなり、息子や家族にとってもメリットがあることなんだと理解してもらました。
息子が通う保育園の先生たちにも
さらに、保育園や療育など、息子の通園先にも絵本を寄贈しました。
胃ろうを造る前に読んでもらうことで、預かる側の「胃ろうのある子を受け入れて大丈夫なのだろうか?」という不安の解消につながると感じたからです。
実際に、多くの先生たちからは、
- 医療的ケア児を受け入れる側は、最初は漠然とした不安が絶対にある。それが可愛い絵で書かれているとわかりやすく、導入しやすい。
- 受け入れる側としても、普段どういうことに注意すればいいかがわかった。
- 「胃ろう部分に何かが当たってしまっても大丈夫なのか?」などの基本的な疑問も解消できた。
など、息子の胃ろうについて、事前に理解してもらうことができました。
保育園に通う他の子どもたちにも読んでもらったり、療育では胃ろうを考えているお子さんのママの役にも立つのではないかと思いました。
周りの変化
一番嬉しかったのは、家族が息子の医療的ケアをしてくれるようになったことです。
経鼻栄養のチューブ交換など今まで辛くても他人に見せられなかったケアや、胃ろうについて詳しく知ってもらうことができ、周りの医療的ケアへの理解が進んだのです。
祖父母は、「胃ろうの周りがじゅくじゅくしていても、こういう経過があるんだね」と怖がらずにケアをしてくれるようになりました。
また、お兄ちゃん・高校生のお姉ちゃんが胃ろうからの注入をやってくれるようになりました。他のきょうだいたちも、遊んでいる時に息子のお腹を攻撃しないなど、気にするようにしてくれています。
息子はみんなと一緒に走ったり、動けたりする「動ける医療的ケア児」です。
この絵本は、息子のように「お腹に穴が開いている子もいるんだ」と多くの人に理解してもらえる、大事なきっかけになったのです。
「ちーちゃんおなかのあな」の作者は医療的ケア児のご家族
「ちーちゃんのおなかのあな」のちーちゃんは実在する医療的ケアが必要な娘さんであり、絵本を作られたのは、ちーちゃんのご両親です。
作者のクドウさんがブログに出版までの道のりや思いを綴られています。
本日【絵本 ちーちゃんのおなかのあな】発売しました。絵本制作ヒストリー完全版。
「自分はこの子のために何ができるのだろうか?」
「娘が障がいを持って産まれてきた意味を見つけたい…」
そのような思いから絵本の出版に至ったそうです。クラウドファンディングなどを行い、たくさんの方々に応援してもらって作られた絵本。
この記事に関しても、「ぜひたくさんの方に読んでいただきたい」と内容紹介を快諾して下さいました。
医療的ケア児家族だからこその想いと視点で作られた絵本が「ちーちゃんのおなかのあな」なのです。
これからもたくさんの方の役に立つと思います!胃ろうについて知りたい、周りの人に知って欲しいという方は、是非一度お手に取ってみて下さい。