児童発達支援の中でも、重症心身障害児のお子さんを中心に受け入れる通所施設の「ここね」。
体調が悪くて通所の予定をお休みする子が出ても、すぐにキャンセル待ちの別のお子さんが決まるほどの人気の施設です。
そんな「ここね」の代表である森えりかさん。
自身もママである森さんに、お子さんたちとの関わり方や、ここね運営に関する想いなどをお聞きしました!
目次
ここねでは、とにかくお子さんにたくさん遊んでもらいます
森:ここねでは、「遊びが楽しい」というお子さんのシンプルな気持ちを大切にしています。
ケアやリハビリ、療育も大切ですが、お子さんにはとにかく、たくさん遊んで欲しいんです。
これは、ある1ヶ月のここねのスケジュールです。
ーーーすごい!楽しそうですね!
森:ここねでは、毎日、様々なプログラムを行います。春はおひなさまを作ったり、夏は夏祭りをしたり。
これらのプログラムには、もちろん全てリハビリや教育などの目的がありますが、それらを前面に出すと子どもたちは「やらされている」と感じてしまうんですよね。
そうではなくて、常に子どもたち自身が「やりたい!」と思えるように、常に子どもの「遊びが楽しい」という気持ちが中心にあるように、私たちは毎日のプログラムを行っています。
調理や制作も、「食べること」「作り上げること」が目的ではありません。
作る過程で、匂いを嗅いだり素材に触ったりする、「経験」が目的なのです。
お友達と一緒にプログラムを楽しみます
森:2月はバレンタインなので、「サクサクチョコレート」を作りました。
お子さんたちにサクサクのフレークと、甘い香りのチョコレートと、フワフワのマシュマロを触ってもらって、それらの感覚を楽しんでもらいました。
視力や聴力が弱いお子さんでも、匂いや感触は楽しむことができます。その子の発達に合わせて、楽しく遊びながらチョコレート作りをしました。
また、天気の良い日はみんなで近くの公園に行って、そこで歌を歌ったり、絵本を読んだりもします。
近くの保育園の子どもたちが来ていることもあって、一緒に遊んだりもしますね。
子どもって、普通にすっと友達になれるんです。
歌を歌ってたら「何してるの?」って寄ってくるし、あんまり「この子はどうしてこうなってるの?」とかそういうことも聞いてきません。
お子さんたちって、見るもの全てを当たり前のものとして受け入れられるんですよ。とても素敵なことだなと思いますね。
小さいうちから、遊びを通してステップアップして欲しい
ーーー森さんが、こんな素敵なここねを作ったきっかけは何だったのですか?
森:私は、13年間、障害者の施設で働いていました。そこは18歳以上の方が対象で、私より年上の方もいらっしゃいました。
でもそこで、ずっと感じていたことがあります。
障がいがあることで「難しいのでは…」とできる範囲の中での判断をされてきたり、周りの人が心配して手を差し伸べすぎてしまうことで、経験を得るチャンスを逃してしまったり。
本人もやりたくても行動に移すのに勇気がいるため、諦めてしまったり。
そうして大人になられた方も、本当はできることや可能性が、もっともっとあったのではと、残念な気持ちになることがたくさんありました。
そういう方をずっと見てきて、障がいがあっても、小さいうちから遊びを通してちょっとずつステップアップすれば、できることの幅は違うけれど、大人になった時にもっと変わるのではないかと思いました。
そんな小児の施設を作りたかったんです。それが、ここねを作ったきっかけです。
お子さんがこんなに変わった!との声をたくさんいただきます
ーーーお子さんがここねに通うようになって、「こんな変化があった」などの声はありますか?
森:それはもうたくさん頂きます!
「ここねから帰った日はご機嫌です」「家に着いてもずっとニコニコしています」などの声を聞くと私たちも嬉しいですね。
また、「お家ではご飯を食べないけどここねだと食べる」、「お家でのリハビリは泣いちゃってできないけどここねだとできる」といったお子さんもいます。
ここねでは、お子さんにいっぱい「かわいいね」「すごいね!」と声をかけます。お子さんはそれが嬉しくて、がんばれたりするんですよね。
それからここねには、お友達がいるというのも大きいですね。
お友達どうしって、私たち大人が介入できない不思議な力があるんですよ。お友達がやってるから自分もがんばろうと思う子はいっぱいいます。
ここねでは、いつでも、誰でも遊びに来て下さいとご家族には言ってあります。
それで遊びにきて下さったママが、「子どもが家で見せる顔とここねで見せる顔が全然違う。こんな表情は家では見たことがない」とおっしゃったこともありました。
ここねでは、とにかく「母子分離」にこだわっています
森:ここねでは、とにかく「母子分離」にこだわっています。
お迎えに行って、玄関の前でお子さんをお預かりして、帰りはまたお家の前までお送りします。
そうすることで、お母さんは自分の時間を作れたり、きょうだい児と過ごすことができるんです。
あるお子さんを初めてお預かりした日に、ママが朝はメガネだったのに夜はコンタクトになっていたことがありました。
「やっと病院に行けました!」と嬉しそうにおっしゃっていました。
母子分離することで、ママは病院や美容院に行けるんです。お仕事や習いごとを始められた方もいらっしゃいます。
週1回でもお子さんがご家族から離れてここねに来れば、ご家族の方もほっとする気持ちがあるんですよね。
ありがたいことに、ここねへの通所を希望しているママが多く、今はお子さん1人につき週に1回から2回ほどのお預かりです。
キャンセル待ちの方も毎日何人もいらっしゃって、当日、直前でもいいからお電話を下さいと言っていただくこともあります。
毎日お子さんの写真を撮り、その日のうちにお渡し
ーーー母子分離を不安に思う方もいらっしゃるのではないですか?
森:もちろんそういう方もいらっしゃいます。
お子さんが安心して過ごせるように、お母さんたちも安心して「行ってらっしゃい」と言えるように、最初はいくらでも一緒に来て過ごして下さいとお伝えしています。
中には、1ヶ月ぐらい付き添いされたママもいました。
それからここねでは、毎日「連絡帳」を書いています。
ノートに今日一日の様子と、食事、水分、排泄などについて書き、お写真を添えてお渡しするんです。
実際どんな風に過ごしているのか、またお子さんの一瞬の表情などを撮影し、1日だいたい5枚、イベントの時は10枚ほどお渡ししていますね。
森:ここねでは、信頼をとても大切にしています。
ここねで起こったミスは、どんなに些細なことでもご家族に報告します。
「このぐらいだったらいいだろう」というのはありません。全てお伝えします。
ご家族はお子さんを本当に心配しているんです。安心してここねに来て頂けるように、信頼関係はとても大切ですね。
新しい福祉の形を目指して
森:ここねは、お子さんを家までお送りした後、そこで訪問看護師に引き継ぐこともできます。その場に親がいなくても大丈夫なようにしているんです。
そうする事でお母さんは長時間自由になり、その間にいろんなことができます。
子どもさえ預かればいいというのではなく、親の社会復帰も大切にしたいんです。
ーーー親の社会復帰は、まさに、ずっと課題となっている部分ですね。
森:私は、今後、福祉施設はこうなっていくべきなのでは?と思っています。
親が付き添って施設に来て、また迎えに来てもらうとなれば、親にもきょうだいにも負担がかかります。
ご家族の誰かにしわ寄せがいって、誰かが我慢するのではなく、みんなが幸せになれるように。ここねはそういった家族の形を目指して活動しています。
お伺いした「ここね」は本当にお子さんやスタッフみんなが楽しそうで、私自身「ここで働きたい!」と思えるほど素敵な施設でした。
「お子さんたちの遊びたい、楽しいという気持ち」「安心して預けられるというご家族の気持ち」
それらを一番大切にし、さらに医療的ケア児家族の課題である、「親が子どもに付きっきりになる」という状況を変えているここね。
福祉のあり方を問う、素晴らしいお話を聞くことができました。
森さん、ありがとうございました!