IT企業の弁護士としてグローウィル国際法律事務所を経営する弁護士の中野秀俊さん。
難病の息子が生まれ、経営者としての考え方も大きく変わったといいます。
難病の息子が生まれて、生活が激変
しかも、子どもが病気だと分かってから初めて知ったのですが、病児がいると家族への負担がすごく大きいんですよ。
…どんな負担があるんでしょうか?
子どもと一緒に付き添い入院が必要だったり、退院後も親が家で看護をするなど、家族が看護を一手に担うことになります。
息子は先天性の心疾患で、移植や人工心臓などをいろいろと検討しました。
ですが、移植を待つとしても、いつになるかわからないそれまでの期間、ずっと24時間看護するのか、それは現実的に可能なのか…
結局1年近く入院して去年退院しましたが、生活は激変しました。
激変…ですか。
大地は24時間在宅酸素や人工呼吸器が必要で、常に誰かが家で見ている必要があります。
主に妻が見てくれていますが、上の娘もいるので、「◯時までに帰らなければならない」などの時間的制約が一気に増えました。
朝は家で仕事をするなど、かなりスケジュールを調節して対応しています。
(アンリーシュ公式YouTubeでも赤裸々に語って下さっています!)
「正直自分いけてるな」と思っていたけど…
ご自身で法律事務所を経営されているんですよね。
約5年前に独立して今の事務所を立ち上げてから、比較的スムーズにここまできました。
仕事が大好きだったし、売り上げもお客さんも順調に増え、事務所も大きくなっていって…そんな自分結構いけてるなって思った時期も正直ありました。
でも、大地に教えてもらいました。そんなのただ僕の視野が狭かっただけなんだって。
僕は仕事が大好きでバリバリやってきたぶん、今まで努力できない人や弱い立場の人に対して、「努力できない方が悪いんだろう」とか「自己責任だろう」と思っていました。
でも、世の中にはこんなにたくさんの病気や障がいを持つ子どもがいるし、親が24時間介護している。
努力したくてもできない環境にある人がたくさんいると知りました。
僕が成功だと思っていたものは、ただ自分の周りの、狭い世界でだけ通用するものでした。
それに気付くことができて本当によかったと思います。
経営者として、そして当事者として。両方の立場で思うこと
大地が生まれてから、少なからずみんなこういう事情があるんじゃないかと思いました。
出産や家族の介護をきっかけに時間の制約が増え、結果仕事をやめてしまう人もいるんじゃないかと。
例えば僕がどこかの会社の従業員だったとして、「大地が生まれました。家族での看護が必要なので、今まで通りに通勤できません」となったとき、時短やリモート勤務が無理だと言われたら、僕はその会社を辞めるしかないです。
確かに…そうですね。女性などはほぼそのパターンです。
経営者として、従業員に子どもが生まれたり、家族の介護が必要となった時に、在宅での勤務を希望するならそれを叶える必要があるとずっと思ってきましたし、そうしてきたつもりでした。
でも、大地が生まれて、「病児の父」という当事者になって、改めて思いました。
誰もがこういう状況に、いつ置かれてもおかしくないし、これからきっと増えて行くだろうと。
この先きっと、理解のある会社に人が集まり、そうでない会社は自然と人が離れ、淘汰されて行くでしょう。
今までは、経営者は社員よりも会社の成長を優先させていたが、これからはそんな時代ではありません。もう、世の経営者は考えを改めなければいけない時期に来ています。
難病の息子に教えてもらったことを、社会に還元していく
子どもが病気を持って生まれるという経験は初めてで、人生に何度もないことです。
大地が生まれたことに意味があるのならば、それは神様の「病児や医療的ケア児に向けて何かをしなさい」という私へのメッセージなのかもしれないと思いました。
今までずっと必死で仕事をし、走り続けてきました。
ですが、大地が生まれて、知らなかった世界を知ることができ、考え方も変わりました。
子どもって、先天性の病気や親の経済状態などで、生まれながらにしてスタートラインが違うんです。でも、それってあまりにも不平等じゃないですか。
努力できない状態にある子も、せめて機会の平等は与えられるべきです。
僕は大地にたくさんのことを教えてもらいました。これからは、僕がそれを社会に伝えていく番だと思っています。
息子の大地は、生後8日目には「もう生きられない」と言われたほどの重篤な状態でした。
ですが、都内の子ども病院がどこもいっぱいで入れなかったんです。
それで埼玉の病院に入院したんですが、正直、病気の子どもってこんなにたくさんいるの!?と驚きました。