医療的ケア児をはじめ、筋肉の緊張が高い子や背骨の変形が強い子にとって、排痰ケアは欠かせません。
そもそも、なぜ痰を出す必要があるのでしょうか?
痰が体に溜まることにより起こる問題として、
- 肺炎の原因となる
- 息が苦しくなる
- 過剰な呼吸で筋肉の緊張が高くなる
- 心臓へ負担がかかる
- 睡眠の質が低下する
などが挙げられます。
痰は最終的に咳(せき)や吸引によって体外へ排出されます。
しかし、痰の排出が苦手な子の場合、それだけでは不十分なケースが多々あります。
それを、より効果的に行うためにとても有効なのが排痰ケアです。
お名前:まさ(Ease Up)
経歴:総合病院、一般病院、整形クリニック、デイケア、デイサービス、療育センター、訪問看護ステーション、教育機関専任講師
Instagram:ease.up00
情報ブログサイト「HIKIDASHI」:https://easeup-masa.com
目次
排痰(はいたん)ケアにはポイントがある
排痰とはその名の通り「痰(たん)を体外へ排出すること」を指します。例えば痰が体(肺)の奥深くに存在するとします。
そうすると当然、咳で上手に排出できないうえ、吸引をしても十分に引けることはありません。
実は排痰には吸引や加湿、お薬といった手段の他にも知っておくべきポイントがいくつも存在します。今日はそちらをご紹介していきます。
ポイントを理解することで、ケアの質は必ず向上します。そして、ケアの質が向上することはきっと日常の安心に繋がると私は思います。
炎症によって痰が増える
痰は正常でも常に発生し体のメカニズムにより体外へ排出され、そのまま飲み込まれてしまいます。
問題は、その許容範囲を超えて肺の中に溜まったときです。
蓄積された痰が原因で、体内では「炎症」が起きてしまいます。(代表的なものでは“肺炎”や”風邪”でしょうか。)
炎症が起こると前述した粘液の量が増えたり、色が付いたり(膿性)、ネバネバになったり(粘稠:ねんちょう)あるいは出血が混じった痰となります。
痰が体の外へ出るメカニズムを知っておこう!
痰が出るメカニズムをご存知でしょうか?これって意外にもあまり知られていません。
ケアの中で排痰メカニズムをイメージできると、同じ内容でも確実に “質” が向上すると思います。
体内の痰は、肺に入る空気の流れによって移動します。つまり、肺内で空気の出入りが少ないと、上手に痰を喉元まで上げることができません。
また、空気の通り道が乾燥していても同様に痰は移動しなくなります。
適度に加湿がなされることで痰はスムーズに移動しやすくなります。
具体的な排痰ケアのポイント
小児、特に乳幼児では、空気の通り道が十分に発達していない場合があります。
痰が詰まりやすい状況であるため、これらをしっかり行っていく必要があります。
また、骨や関節が成人に比べ柔らかいため、強く力を込める必要はありません。ストレスがかからないように優しく行うよう注意をしてください。
呼吸介助を行う
排痰を行う際、よく「呼吸介助」という方法が紹介されます。
これは、呼吸に合わせて胸を軽く圧迫して、正常の呼吸運動を補助することを目的とします。胸の動きが改善されることで、よりたくさんの空気が肺に入り、痰の移動を促してくれます。
ただし、見様見真似で行うことは避け、必ず医療従事者指導のもとに実施をしてください。
また、実施方法によっては逆効果となる場合もあるので注意が必要です。
特に気管・気管支軟化症の場合は注意が必要です。
気管・気管支軟化症の場合、息を吐く際に気道が潰れやすいという特徴があります。
つまり、安易にこの方法を実施すると過度な圧迫により気道へ過度なストレスをかけてしまう場合があります。必ず担当の医療スタッフによる確認・指導を受けて実施して下さい。
筋肉をほぐしてあげる
痰が増えると、浅く早い呼吸になります。
力んだ呼吸は筋肉を酷使し、筋肉が硬くなることでより呼吸を妨げてしまいます。
このことから、呼吸に関わる筋肉をほぐし、楽に呼吸ができる身体を維持してあげる必要があります。
ただし、指圧のように “グリグリ” とマッサージする必要はありません。
小児では骨・関節が脆弱であるため、強く行うことで肋骨(ろっこつ)や背骨にストレスがかかりやすくなります。
そのため、手のひら全体で撫でるように優しくほぐしてあげてください。
強すぎる刺激は余計な緊張を助長してしまいます。
タッチの基本について:https://easeup-masa.com/relax1/
呼吸に関わる大胸筋のマッサージ:https://easeup-masa.com/relax-muscle/
姿勢の管理(体位排痰法)
繰り返しになりますが、痰を出すためには空気をしっかり肺に入れなければいけません。
そのためによく挙げられる方法が「体位排痰法」です。
要は『痰が出やすく空気が入りやすい姿勢を作りましょう』というものです。
おそらく、病院でも「仰向けばかりではなく色々な姿勢をとらせてあげてくださいね」なんて言われたことがあると思います。
このように横向き姿勢や座位姿勢など姿勢を変えることで、肺の中でも空気の入りやすい場所が変わります。
どこに痰が溜まっているかで姿勢を変える
胸を包み込むように触れたとき、呼吸に合わせてゴロゴロするような振動を感じます。
このゴロゴロの正体は呼吸によって動いている分泌物(痰)です。
基本的にはこのゴロゴロが上に向くように姿勢を変えてあげることで痰が出やすくなります。
例)左の脇の下がゴロゴロしている→左側が天井を向くように横向き姿勢をとる
さらに、楽な姿勢でないと緊張が抜けず深い呼吸ができません。
特に緊張が高いお子さんをうつ伏せにする際は不安定になりやすく、緊張により効果的な呼吸が行われない場合があります。
枕の高さやクッションを当てる位置など、その子にあった方法を医療スタッフと相談して行うようにしてください。
手足をクッションで支えるときの注意: https://easeup-masa.com/position-pillow
横向き姿勢のポイント:https://easeup-masa.com/position-sidelying/
注意すること
苦しそうだとよく「肩枕」のように首を反らして気道確保するような姿勢を勧める記事もありますが、これには注意が必要です。
先ほども例に挙げた「気管・気管支軟化症」の場合、喉が伸長されたり、身体が反るような緊張を助長したりと余計に苦しくしてしまう場合があります。
その他(機器を使用した排痰)
この他にも機械・機器を使用して痰の移動や咳を促す方法があります。
意識的に呼吸の調整ができる子であれば、簡易的な排痰機器も存在します。
気になる方はぜひ担当の医療スタッフに尋ねてみてください。
(具体的な商品名については控えさせていただきます。身近に詳しい方がいないときは、お手数ですが私のインスタグラム(ease.up00)にDMをお送りください。)
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は「排痰ケア」についてお話させていただきました。
呼吸は生きていく上でとても重要な運動です。
絶え間なく行う呼吸だからこそ、呼吸ケアは医療スタッフ・ご家族・教育現場など関わる全ての人で行っていく必要があると思います。
もし、日常のケアにまつわる心配事があればお気軽にご連絡いただければと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。