福井県で和紙の製造業を営む滝 道生さん。
滝さんのお子さん、智朗(トモロウ)くんは生まれつきの心疾患です。幼い頃、手術の際に低酸素脳症になり、脳に障害が残りました。
納得できる答えが見つかるまでいくつもの病院に通ったり、ドーマン法という自費のリハビリを行ったり、積極的にトモロウくんと向き合ってきた滝さん。
そんな滝さんが今、最も強く感じているのは「限りある資源や予算を、効率的に使える社会に変わる必要がある」ということ。
育児を通して日本の福祉・医療・教育を見つめてきた滝さんに、お話を伺いました。
【滝 道生さん】
福井県越前市で、越前和紙のメーカー「瀧株式会社」を営む。
近年はバナナペーパーというバナナの茎を原料とした紙の製造に力を入れている。今まで捨てられていたバナナの茎を使うことで、環境に優しく、持続可能な社会の実現へ向けた新しい紙として注目されている。
瀧株式会社の製品は、
タキペーパー「ジカタキ!」https://www.takipaper.jp もしくは、
山櫻「バナナペーパー製品(ページ下部)」
https://www.yamazakura.co.jp/csv/community/bananapaper
より購入可能。
目次
この先、介護の担い手は減り、両親は高齢になる。そうなったときに、私たちはどうなるのか
滝:トモロウは心臓病で、脳に障がいがある医療的ケア児です。
入浴やトイレに介助が必要で、学校に行くのは週に2回。あとは家で私たち夫婦が見ています。
滝:この先、トモロウが大きくなっていくに従って、私たちの体力は落ちていきます。いつか介助が難しくなるかもしれません。
今はありがたいことに訪問看護に入ってもらっていますが、この先、構造的に看護や介護の担い手が減るだろうことは容易に想像がつきます。
両親もだんだん歳をとってきており、そのうち介護が必要になるかもしれない。そうするとこの先どうなるんだろうと、漠然と、でもリアルに考えるんですよ。
国は、予算を効率的に使うような方法を考える必要があると思う
ーーー滝さんがおっしゃったことは、障がい児を育てている多くの方が感じていることかもしれません。
滝:トモロウは脳に障がいがあり、肢体不自由です。
でも、歳をとって体が弱くなり、動きが不自由になる人もいるじゃないですか。若くても病気や事故で体が動かなくなった人とか。
それぞれ肢体不自由という状態は同じですよね。
でも、そこでそれぞれが、国の予算を取り合ってしまっているような気がするんです。
ーーー予算を取り合ってしまっている…
滝:例えば、心疾患の子どもを守るような会だったり、全国の障がい児を守るような会など、色々な会がありますよね。
私自身も、トモロウや友人の心疾患のお子さんについて、議員さんに相談したこともあります。
そういう声がたくさん国には届くでしょう。
でも、国家予算は決まっているし、国会の時間も限られています。話し合うこともたくさんあるし、全ての声に対応することは難しい。
どうしても、自分ごととして考えられる法案は通り、そうじゃないものはなかなか通らないんだろうと思います。
ーーーそれが、予算を取り合っていると感じる状況なんですね。
滝:なので1つ1つ個別に対応するのではなく、もっと大きな枠組みで、予算を効率的に使うようなやり方を考える必要があるのでは?と思っているんです。
情報共有ができていない現実
ーーーなるほど。どうしたらもっと大きな枠組みで考えれられるようになるんでしょうか?
滝:そうですね…例えば、ノーリフティングケア運動をご存知ですか?
ーーーノーリフティングケア?…お恥ずかしながら知りませんでした。
滝:介護の際に、人を持ち上げたり抱えたりすると腰を悪くしてしまいます。それを防ぐために、リフトなどを適切に使って介護をしましょうという運動です。
ノーリフティングケアについて知りたい方はこちら
一般社団法人 日本ノーリフト協会
でも、この運動はあまり知られていません。
少なくとも全国の当事者や支援者はみんな知っているべきだと思うのに、ノウハウの共有や効率化が、残念ながら全然できていないんです。
まずはそれぞれが持っている情報を知ることができる、それが大事だと思います。
ーーー確かに、情報の共有は課題の一つだと私も感じます。
滝:トモロウの病気について知るために、長崎・東京・静岡・大阪といくつもの病院に行きました。
ところが医療機関はカルテが別々で、各病院でそれぞれMRIを取ったりしないといけなかったんです。検査結果を持たせてくれはするんですが、いろいろ手続きが必要でした。
その時、もっと簡単に共有できたらいいのにと思いました。
どこかにデータがあって、日本中の医療機関からいろんな先生がアクセスできればもっと簡単なのに、と。
あるドクターに提案してみたら、プライバシーの問題があるので、今の日本では難しいんじゃないかと言われましたけどね。
ーーーやり方を考えればできそうな気もします。
滝:そうなんです。人手や予算といった資源には限りがあります。その限りある資源をどう上手に使っていくのか、そのやり方を見つけないといけない。
例えば、定年を迎えて時間に余裕がある人などが、他の人の不便さを助けることに生きがいを感じてくれるような社会になるだけで、だいぶ変わってくるんじゃないかと思います。
ポイントはそういう社会の作り方にあるのではと感じています。
障がい者を知らない、見ないという今の社会を変えるべき
ーーーどうしたらそういう社会を作ることが可能でしょうか?
滝:日本って初めから、障がいがある人・ない人と分けちゃうじゃないですか。
私たち親子3人でスーパーに買い物に行った時に、他のお子さんがトモロウをじーっと見るんですよね。
つまり知らないんです。ともろうのような子を見たことがない。
滝:障がい者を知らない、見ない、としている今の社会では、効率的に予算を使おうという発想も出づらいだろうと思うんですよ。
でも、事故や病気をきっかけに、健常だった人が肢体不自由になる可能性だってあるし、他人事ではないはずなんです。
発信は必要悪だと感じたことも
滝:私たちは自分の考えや体験を発信することで、状況や課題をなるべくみなさんに知ってもらおうとしています。
発信していて、これは必要悪だなと思う部分もあったんですよ。
ーーー必要悪?
滝:以前トモロウのリハビリのお金を集めるために、クラウドファンディングをしたことがあります。
その時に公開したYouTube動画に、見ず知らずの人から「頭がおかしい親子だ」などのコメントが付いたことがありました。
ーーーそれは、傷つく出来事ですね…
滝:でもそのコメントは、少なからず興味がある人、同じような状況に置かれている人からのものではないかと思ったんです。全く興味がなければ、いいも悪いも言いませんし。
私たちの発信をきっかけに議論が生まれれば、問題解決のアイデアが出るかもしれません!そうであってほしいと願っています。
目指したい未来は、堂々とみんな一緒に
滝:トモロウは文字盤とか意思表示装置で色々教えてくれます。
以前「家族を守りたい」と表明してくれて、それが嬉しかったりもしました。
歩いて歌ったり踊ったりしたいと言ったこともあって、それは叶えてあげられないから私たちも申し訳ないと思いましたが。
もっと意志伝達装置が普及して、障がいを抱える本人が意思を伝えられるようになったらいいと思います。
トモロウも、自分の考えがわかってもらえるのが嬉しいようですし。
そうやっていろんな人の繋がりを増やしていけば、私たちが年老いた時に、繋がりを頼りに何かできるかもしれないという期待が膨らみます。
目指したい未来は、堂々とみんな一緒にいることです。個人の自由を受け入れながら、それを協力して実現したい。
一人一人の行動と選択の結果が、その他の人たちの将来にも影響を与えます。
でもそれも、私たちの考えが必ずしも正しいわけじゃない。色々な考え方があっていいんと思うんです。
滝 道生さんブログ「ザカタキ!」https://www.takipaper.com/zakataki/
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滝さんが代表を務める越前和紙の老舗メーカー 瀧株式会社 の製品は、
タキペーパー「ジカタキ!」https://www.takipaper.jp もしくは、
山櫻「バナナペーパー製品(ページ下部)」
https://www.yamazakura.co.jp/csv/community/bananapaper
より購入可能です。