大阪市ウメキタで、「たい焼き甘味処 おめでたい」を営む野寄 聖統さん。
おめでたいは現在、雇用しているスタッフは全員障がい者というお店ですが、最初からそうではなかったそうです。
野寄さんは、どのように障がい者雇用を進めて行ったのか。苦労したこと、良かったこと、また今後の展望などをお聞きしました。
【たい焼き甘味処 おめでたい】
大阪府大阪市北区中津5丁目1-2
070-1815-1715HP: https://omedetai.jp
Instagram: https://instagram.com/omedetai_osaka?utm_medium=copy_link
目次
25歳の時に、母親が障がい者になった
ーーー障がい者を多く雇用されているそうですが、きっかけはあったのでしょうか?
ーーーまだお若かったんですね
点字や白杖の練習をする施設に、1年ぐらい母と一緒に通いました。母も僕も、まだこれから自立して生活していく必要があったからです。
そこでいろんな障がいがある方と接する経験をしました。
もしそれがなければ、障がい者に積極的に声をかけていいのかどうかわからないままだったと思います。
「店長以外全員障がい者」のお店
ーーー今のお店はいつ頃から始められたのですか?
2020年の春、ちょうど初めての緊急事態宣言が発令された頃です。
お店は梅田の近くにあるので、本当はもっと観光客がいっぱい来て、めちゃくちゃ儲かるはずだったんですよ。笑
でも、忙しくていっぱいっぱいになってたら、今の形にはできませんでしたね。
障がいがある方の特徴には、お金がさわれない・刃物が持てないなどの物理的なものから、いっぺんに色々できないなどのメンタル的なものまで色々あって。
それらを、ゆっくり仕事を覚えながらチームでカバーする体制を作ることができて、変な言い方ですがちょうどタイミングが良かったと思っています。
ーーーどういった障がいの方が働いているのですか?
今「おめでたい」で働いているのは、店長以外全員、精神障がいがある方です。
一番若い方は20歳ぐらいで専門学校に行きながら働いています。逆に一番年上の方は43歳。色々な所で働いてきて、今うちにいます。
ネットでうちの店を見つけて、初めて社会に出て働くがどうしてもここで働きたいと言って来てくれた子もいます。
みんな優しくて思いやりがあるし、気遣いができる人が多いです。自分たちは心に疲れがあると共感しているのかも知れません。
最初はハローワークから。徐々にネットワークが広がって…
ーーー障がい者を雇用しようと思った時、まず最初に何をされたんですか?
最初は、単純にハローワークに行っただけです。
そこで初めて、障がい者や高齢者といった枠があることを知りました。
僕の母も障がいがあるけど、社会と繋がれる所があってもいいな、多様性があってどんな人でも働ける場所になったらいいなと思って、とにかく健常者も含めて障がい者・高齢者など全部に募集をかけてみようと思いました。
大阪の最低時給で募集したのもあって、結果障がい者の応募数の方が多かったですね。
ーーー障がい者の方は、どういった感じで応募して来られるのですか?
就労支援センターのような施設で、就労のトレーニングをしてから応募される方が多いですね。面接前にセンターの方と一緒に見学に来られることもあります。
面接してみたら、生活保護を受けながらもまずは働きたいという人ばかりだったんですよ。
そんなに一生懸命だったら僕も断られへんわ、と思って、結果として採用は障がい者の方が多くなりました。
一回採用すると、支援センターからもう一人見てもらえませんかと紹介が来ることもあります。採用に至らなかった別のセンターからも、トライさせてほしいと依頼が来るようになりました。
ーーー紹介なんかもあるんですね!
特別支援校や就労支援の学校から職業体験の依頼も来ましたよ。初めて社会に出て働くので、1週間ぐらい体験させてほしいと。
そういう場所を探してるらしいんですよね!そんなん早く言ってくれと思うんですけど。
飲食店は人気があるけど断られることが多いらしいです。
知らなかったですよ。そういうの見てると応援したくなりますよね。
ーーーネットワークが徐々にできてきてるんですね
なんかあのお店いいみたいよっていう感じになってきて。こちらも、せっかくだからみんなでできることをやりましょうと。
採用前の面談をするまでに、自分自身がお客様として来てみたり、見学だけでもしておくと、実際働いてみてからのギャップが少なくてスムーズです。
ーーー採用も工夫されているのですか?
そうですね、まずは1日体験をしてもらって、そこで雰囲気が合えばチャレンジしてもらうという形です。
一生懸命働きたいとか、良くなりたいと思っている人は、僕らも応援する気持ちですね。
働く意欲がある人は、何かしら社会とつながっていきたいという思いが根底にあります。自分を認めてもらい、働いて貢献して喜んでもらいたいと思っているんです。
僕のところまで来る人は、そういった人が多いですよ。
雇用制度が難しい。いまだにわからない部分もある
ーーー障がい者雇用に関して、よくわからない部分とかありましたか?
今もあります、かなりあります。
難しいのは制度の部分ですね。支援センターに「採用したよー」と伝えたら、「もう少し早く言って下さい」と言われたりとか。必要なやりとりがあるらしいんですが、そんなのよく知らんし、聞いたこともないし。
採用したら採用したでまた手続きがあるんですけど、同じ書類が何枚も必要だったり、不備があって手直しして、期限がちょっと過ぎたら問答無用でもう無効になっちゃったり。
やたらと手間のかかる書類って、多分不正をするような人がいるから、複雑になっているのかなと思うんです。正直、真面目にやっているところには、とても不親切ですね。
本当はもっと現場に出てみんなに時間を使いたいんですが、手続き的なことに時間を取られるのがすごく悩ましいです。
障がい者雇用に特別な手続きなどが必要だと思っていなかったので…いまだに勉強中です。よくわからない部分がまだまだありますね。
ーーー今は全員精神障がいがある方とのことですが、身体障がいの方も採用したことがあるんですか?
障がいのカテゴリーは全然条件として出してないんです。
でも身体障がいの方ってあんまり来ないんですよね。今まで2件だけかな。うちはトイレが2階にあるので、物理的に難しいとなって採用に至りませんでした。
ーーー他の障がい者雇用をされてる方と繋がったりもある?
雇用する側の話を聞きたいからと呼ばれることもあります。
全員障がい者ですって言うと、「えー!どうなってるの!?」と驚かれますね。笑
支援センターや労働局などからすれば、うちみたいな企業がいっぱいあった方が嬉しいみたいです。僕はもう今の状態がスタンダードになったんで、楽しくやってますけど。
障がい者の雇用率は、障害者雇用促進法によって定められています。
従業員が43.5人以上いる民間企業は、従業員のうち2.3%以上の障がい者を雇用する義務があります。(2022年3月現在)
雇用して初めて感じた課題。オペレーションを工夫して解決!?
ーーー障がい者を雇用していて、難しかったことや課題を感じたことはありますか?
たくさんのことを一度に処理できない人が多いですね。なのでひとつずつできるような流れを作る必要がある。
お客さんがいっぱい来ると注文内容を忘れちゃうとか。「どうなってるの?」と聞いても、「どうでしたっけ?」って。
また、たい焼きは見た目が同じなので、どれがあんこでどれがクリームかわからなくなっちゃったりとか。
これらは、オペレーションを工夫して解決しました。
2人以上でオーダーを聞いておくようにしたり、たい焼きの置き場にシールを貼って、一目瞭然でわかるようにしています。
「できないことはできない」と僕らがちゃんと認識して、それを無理にできるようにするのではなく、できる人でカバーしていい仕事しようねっていうのをチームで共有しています。
ーーー障がい者を雇用して初めてわかったこともありましたか?
物理的な障がいがある人と違って、精神系の障がいの方は仕事の時間とか内容とか、どこまで負荷をかけて大丈夫なのかがわかりにくい。
日によって波があったりするし、いっぱい仕事をさせてあげたいけど、やりすぎてもダメで。
その辺りがやってみて難しいなと感じた部分ですね。普通の労働対価収入とは違うと言うか…オーダーメイドしないといけないのが難しいですね。
思いもよらないアイデアに驚かされた!教えられたこと。
ーーー逆に、こちらが思いもしなかった事などはありますか?
思いがけないアイデアとして、フード感のあるたい焼きが欲しいから、ウィンナーを入れてみようという案が出ました。
ーーー美味しそうですね!
そう思ってやってみたんですけど、ウインナーの油が鉄板と合わなくて、鉄板が焦げてダメになりました。笑
でもやったことないからわかんなかったですし。そこで気付けたからいいんです。
環境を作って期待をすると、ゲームみたいな感覚でみんな楽しくアイデアを出せるんです。もちろん過度の期待はダメですが。
そこからみんなやってみようという力がついて、だんだん自発的にできるようになっていったんです。
ーーーそうなってくると、もう障がい関係ないですね!
そうですね!
今の世の中、何でも用意されすぎていると思います。
問題解決能力や達成する力などの、本質的な力をつけようと思うと、伸び伸びいろんなことやらせてみたらええんちゃうかなと。
ーーー自由な発想って、できる環境がないと生まれないですよね
僕も母子家庭で育ってきたので、自分で決めて自分でやらないといけなかったんです。
できるだろって押し付けはいけないけど、最終全てが学びになるからやってみようぜっていうのは、すごく力づけになるんですね。
作業だけではなく、「自分で考えてやってみよう」という場を与えることも自信につながるなと思いました。
ーーーこっちが教えられたな、なんてこともありますか?
僕自身もこれをやってみたらどうだろう、まずはやってみようと言いつつも、リスクが大きくなってくるとこっそりビビッていました。
でも彼らからいっぱいアイデアが出てくるのを見て、こういうのを忘れたらいけないなと思いましたね。
「アイデアを出してみよう」って自分で投げたんですが、ああ自由でよかったなっていうのを僕自身も学ばせてもらいました。
最終的にツナとゆで卵のたい焼きができたんですよ。今もメニューとして販売しています!食べ応えがあって美味しくておすすめです。
ーーー売れ行きはどうですか?
売れてますよ!
今度ぜひ食べにきて下さい。
ただ戦力として見ているわけじゃない。道場のような職場を目指して
ーーー雇って終わりじゃなくて、ひとりひとりの、その後まで考えてるんですね
ただ戦力を雇っているだけじゃないんです。それだったら、作業をこなせる人であればだれでもいい話ですから。
そうじゃなくて、働きながら、自分自身の生き方を認めたり、できることに気付いたりしてほしいんですよね。
僕は、どうせ同じ時間を過ごして同じ成果を作り出すなら、プラスアルファ人生が成長したとか、何か人の役に立てたという手応えを感じてほしいと思っています。
そういう職場を目指してるんですよ。道場みたいな感じというか。
ーーー「道場」っていいですね!
仕事って、飯を食うためだけにやるんじゃなくて、自分の成長とか生き方が表現される場所だと思います。
そして将来、あの時にこういう体験があったなと覚えててもらえたら嬉しいですね。
人生はチームワーク。できないことは助けてって言えばいい
今の店舗は、来年の3月で立ち退きが決まっているんです。
なので、それまでに自立してどこでも通用する人間になるという目標を立てて、みんなで一緒に頑張っています。
障がいの度合いや個人差があるから人によって課題は違うんですが、最低限ここまできたら安心かなというところまで力をつけてあげられたらと思っているんですよ。
ーーーまさしく道場のようですね!
これから大阪は万博もあるし、ますます多様性が重視されるでしょう。インクルーシブ公園なんかもできるみたいです。
僕たちで実績を作り、この経験が役立てばいいなと思っています。
移転などの声がかかればお店も続けるかもしれませんし、またどこかでチームでやるかもしれないですしね。
ーーー私の肌感ですが、大阪は進んでいるしオープンです。大阪という土地でここから発信していく何かがあればいいですね!
「できる・できない」は、「手帳を持っている・持っていない」ではありません。健常者でもコミュニケーションが苦手な人もいるし、誰でも得意不得意があります。
できることはできるでいいし、できないことは助けてって言えばいいんです。
それを誰かが意地悪せずに補ってあげて、一緒に仕事をしていこうという形になったのが「おめでたい」です。
結局人は、チームワークで補い合い、ビジョンを共有しながら前進していくのだと思います。
それが人生というものではないでしょうか。
【たい焼き甘味処 おめでたい】
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運営本部
株式会社おおきに
大阪市中央区島之内1-7-21 UK長堀ビル8階
06-6459-7783
HP https://www.ookini.company/
僕は母子家庭で育ちました。なので、いわゆる多様性、色々な生き方があるのは小さい頃からわかっていました。
さらに母がある時、脳の病気で全盲になり、半身麻痺も出て障がい者になりました。
その時僕は25歳。母はまだ50代でした。